二
その夜は、なかなか眠れなかった。
近くで猫がケンカしていて、化け猫かと思うような、すさまじいうなり声を上げていた。
その長く引きずるようなうなり声を聞いていると、わたしの心の中の数々の疑念が、だんだん大きくなっていった。
夕食の膳を運んだとき、星炉さんはいつものように、ラジオのニュースを聴いていた。ニュースは、集井卓中将の暗殺未遂事件を伝えていた。
集井中将は死んでしまったかと思っていたが、からくも一命をとりとめたという。しかし、犯人はまだ捕まっていなかった。
星炉さんは、「お気の毒に……」と言っただけだった。わたしも話しかけることはせず、「失礼します」とだけ言って、すぐに下がった。
わたしは昼のことを思い出した。
星炉さんは、なぜあんなに鈍かったのだろう。なぜ運転手が来たことに、気づかなかったのだろう。
星炉さんの部屋は、玄関前を見下ろせる位置にある。男が戸を叩いて大声を出せば、当然聞こえたはずである。もっと奥の部屋にいたわたしにも聞こえたのだから。
声が聞こえたら、何事かと窓から覗くはずである。下まで降りなくても、窓を開けて、どうしたのかと聞くこともできる。
そして、刺されたから救急車を呼んでくれと言われれば、すぐに電話したはずなのに……。