残るは二つ……。
最後のひとつ……。
わたしは両手を胸の前に広げ、最後のひとつが消えるのを待った。
消えた。
同時に、わたしはまゆ実の背中を強く押した。
無防備のまゆ実はどうすることもできず、あっけなく前のめりに倒れこんだ。
先頭の自動車が急ブレーキで停止した。
目撃者が多いこともあり、私は逃げるようにその場を後にした。
ひとまず大成功。帰宅したわたしは、姉と共同で使用していた自室に入り、本棚の適当なところに金髪のウィッグを置くと、まゆ実が昨日貸してくれた数点の衣服に目が留まった。
わたしが絶対着ないようなガーリーテイストだったり、大人びて見えるエレガントな雰囲気のものだったり。
なんだかんだとまゆ実は、影武者案に賛同してくれた。瓜二つな三人めの人間に会うと死ぬなんて、そんなバカげたことフツー、誰が信じようか。
だけど、あのバカ女は信じている。この先まゆ実は、街で金髪の女性を見るたびに怯えるに違いない。笑いが止まらないというのは、こういうことを言うのだろう。
衣服をもらったおかげで、貴輝にも会いやすくなる。初めて彼に会ったとき「いつもと雰囲気が違うね。デニムはいたことあったっけ?」と怪訝な顔をされたからだ。とっさに「いろいろあって」と言いわけしたところ、貴輝はそれ以上聞いてこなかった。
だから次に会うときも「いろいろあって元の服に戻した」と言ってやろう。何も疑うことなく受け入れるはずだ。もっとも、次が最後かもしれないから、そんなこと言う必要はないかもしれないけれど。