第三章 日本の「とてつもなく巨大な宝物」
(1)日本人の莫大な貯蓄
日本銀行の資金循環統計によると、日本国民の家計が有する金融資産残高は2020年12月の段階で1948兆円に上るという。そのうち、俗にタンス預金と呼ばれる直接所持する現金と、銀行などに預けている預金を合わせた総額は1031兆円に及ぶ。日本の国家予算は一般会計で100兆円程度であるから、日本国民はその10年分も現金で貯蓄していることになる。
それ以外に、株、投資信託、保険、年金基金の総額が900兆円に達するらしい。いかにも勤勉な日本人らしい話ではあるが、実はこれは驚くべきことなのである。
お金は使ってこそ、その価値が生じ、いろいろと人生を楽しむことができるのに、日本の国民は使い楽しむことをじっと我慢して、ただ銀行に置きっ放しにしている。このゼロ金利時代にほとんど利息も付かないのに、である。
私には、この金融資産残高は日本人が手にする「とてつもなく巨大な宝物」に思えてならない。
貨幣というものは血液みたいなものである。血液は生物の体の中を循環し生命を維持している。資本主義経済において貨幣が血液の役割を果たし、人々の間をまんべんなく循環して利益を配分し、人々の暮らしを守っていく。それが正常な状態であろう。
しかし、何とほぼ2000兆円にも及ぶ貨幣が滞って循環しないのである。人間で言えばあちこち動脈硬化を起こしすぎて何回も死んでいる状態ではないだろうか。しかし、日本にはまだまだ循環する貨幣が存在し、株価もかつてよりは随分と高止まりしている。
外国資本も大量に入っているせいもあろうが、日本は本当に驚くべき国であると思うのだ。
ただ、この約2000兆円を動かす方法はないのだろうか。これを動かせば絶大なる経済対策になる。特に、日本人の年間の総消費額は300兆円といわれているが、毎年100兆円でも200兆円でも消費に回ってくれれば、経済は大きく立ち直っていくに違いない。
なぜ日本人はお金を使わなくなったのか。その一つの原因に財務省が予算を捻出する際に使用する国債があると思う。特に歳入の足らない部分を賄う赤字国債というものを長期間にわたって乱発し積み上げてきた結果、2021年3月末には1216兆円を超える借金ができてしまった。将来へのつけが1人1000万円といわれる。日本の国民はこの情報が頭にこびりついて将来に不安を感じ、その呪縛から逃れられず、何が起こってもいいようにお金だけは貯めておこう、という考えに支配されてしまった。