第三章 選挙戦

誰一人として抜け駆けする事なく「そんな姑息な真似はしません!」と口を揃えたのに対して、与党と野党の候補者は、当初は

「私も小選挙区一本で挑みます」と威勢のいい事を口にしていたのだが、マスコミの情勢分析が進むにつれ、

「私は折角の有り難い制度ですから使わせて頂く事にします」と小選挙区で日本民主保守党公認候補と当落を争う選挙区のライバル候補者達が、最初は使わないと言っていた重複立候補制を使うと言い出していた。

正に『背に腹は代えられない』という事を目の当たりにしてくれた。

この頃、与野党の既存政党は頭を抱えていた、従来の選挙と違って全く票読みができないのだ。

従来の選挙の様に与党と野党の対決だと、仮に小選挙区では与党候補者が競り勝ったとしても、比例区には逆転して野党へ少し多めの票が有権者のバランス感覚として、投票される傾向があったのだが、今回は三つ巴の戦いの為、まったく票の行方を読めないのだ。

これにより文字通り蓋を開けてみるまで分からない選挙戦となったのである。(面白くなってきたわ)武藤は内心そう思った。

「最初から結果が分かっている事の方が選挙としておかしいもの、これでやっと真面目な選挙になったんだわ」と独り言を呟いていた。

そしていよいよ選挙戦の火蓋が切って落とされた。告示日の選挙初日、武藤は人事構想で拉致担当大臣を担う事になる楯岡剛と拉致担当副大臣を担う事になる、不審失踪者問題研究所所長村木冬彦、国土交通副大臣で領海警備担当の海上保安庁を担当する事になっている海洋学者の佐山明彦等を引き連れて、衆議院議員選挙東京八区のJR線高円寺駅前で、あの参議院議員から衆議院へ鞍替え立候補した日本民主保守党公認候補者の応援に駆け付けた。

最初に紹介された武藤の人気は絶大で、街宣車の周りは人だかりができていた。