第二章 日本民主保守党と先立つもの

これに焦った与党はこれ以上、武藤の新党に国民の目が釘付けにならない様にと与野党の党首会談がセットされた。その席上では、

「これ以上まったく実績も選挙の経験さえもない新党に人気をさらわれては、我々の立つ瀬がありません。前回の総選挙の任期切れも迫った事なので一両日中に解散総選挙に打って出たいのですが異存はありませんね」と与党党首の葛城が野党党首枝村に迫った。

「我々も武藤さんの新党には苦々しい思いをしています。特に重複立候補に関して、卑怯だとか姑息だとか保険と揶揄してくれた事から小選挙区で戦う候補者に動揺が走っています」と実情を告げると、

「我が党でも小選挙区で武藤さんのところの公認候補と選挙を戦う際は、比例への重複立候補をする事で姑息というイメージがついて不利になると深刻に受け止めている。

そうは言うものの重複立候補しなければ一票差でも落選の恐れがあります。その不安の中で選挙戦を戦う事にメンタルが耐えられるだろうかと心配している候補者がいます」と武藤の立ち上げた日本民主保守党の公認候補者と小選挙区で戦う事になる与党候補者の弱音を吐露した。

「かくなる上はこれ以上新党に弾みがつかないうちに選挙戦に打って出ましょう。お互いの利益の為に……」と葛城が枝村に言うと、枝村が大きく頷いて同意した。

この会談から三日後、政局は一気に選挙へと突入していった。国会の会期を八日間残して、内閣は憲法第七条の解散権の行使に踏み切ったのだ。

衆議院本会議の席上官房長官が紫の袱紗に収められた解散詔書を衆議院事務局長に渡し、それを受け取った衆議院議長が起立して、解散詔書を朗読する事で衆議院が解散されるのだ。ここから先は一気に総選挙になだれ込むことになる。解散から五日後、衆議院議員選挙が告示され一二日間の選挙戦がスタートした。