第五章 話し合い

マイケルVS言語聴覚士

私が上田先生を見ると、なにやら先生から殺気を感じた。次の瞬間だった。

「自分が自覚しないと高次脳機能障害は予防できないので、このまま他人事だと言って自覚しないことを続けていたら、いつまでも奥さんに迷惑がかかるでしょ」

と夫を一喝した。

「うぁ、超気持ちいい」

私がこんなことがあったと困って話しても、マイケルのことは、自分がやったことじゃなくて他人事だった夫に対して、上田先生は、マイケルも自分自身だと自覚させ一喝したのだった。

それからは上田先生とは、何が原因で、どうしたら次に同じ症状が起こらないか回避方法を一緒に考え、原因が起こらないように予防する作戦を実行し続けた。睡眠不足の翌日はマイケルが出てきたし、頭を使って疲れたときもマイケルが現れた。

このことを伝えたところ、脳神経外科の黒木先生から、

「規則正しい生活が大切ですからね」と何度も言われた。

「午後十時には就寝しようね。忘れたらいけないから、貼り紙しようか」

マイケル出現の原因になることは、すべて押さえ込む作戦。夫だけに強いれば実行力も弱まってしまう。小さな行動だけど、私も一緒に実行した。

予防行動の繰り返しをしていくことで、それがルーティンになっていった。嫌がることも減っていき、マイケルが出現する時間が少しずつ減ってきたことで、夫と話す時間が少しずつ増えてきた。

行政書士試験の不合格通知が届いた。

夫は、自分で見つけた目標のせいで、いろいろなことが起こり迷惑をかけていたことがあまりにショックだったようだった。またがんばると簡単に言い出せず、目の前の目標がなくなった夫、パソコンに向かっている背中が小さく見えたとき、私は、声をかけることができなかった。