わたしは深いため息をついた。
騙されて憎む相手をまちがえていては、いつまで経っても救われないよ。
わたしは、わたしを中傷する連中のことは軽蔑していたが、その大嘘の報道に騙され、「正義の怒り」に燃える人々のことは、怖いと思っていた。でも、あの小娘の姿を見ると、なんともいえない憐れみを覚えた。
味方を敵と勘違いして、敵を味方と勘違いする人の人生は、どうなってしまうのだろう。わたしは気をとりなおして歩き出したが、視線を感じ、ふり返った。
すぐ近くに、以前会った西純一紀という記者が立っていて、ぞっとした。いつからわたしのそばにいたのだろう。
西純さんは前に会ったときとはちがい、無表情でわたしの方に近づいてきた。周囲に人が大勢いなければ、わたしは逃げ出していただろう。
西純さんは、静かな声で話しかけてきた。
「君さぁ、自分の境遇をおかしいと思ったことはない?」
「……なぜですか」
「君は中学校を卒業してから、ずっと働きづめだろう。それも安い給料で。いっしょうけんめい働いているのに、君も家族も貧しいままじゃないか。貴族や金持ちの娘は働かないどころか、家事や身のまわりのことすら自分でやらずに、遊んでるっていうのに……」
西純さんは、わたしの顔を探るように見ながら言った。
わたしは、西純さんがなにを吹き込もうとしているかが読めたので、反論を考えながら聞いていた。