理佳子は高級ブランドショップで宝飾品の販売をしており、普段からそれなりの客を相手にしていることもあってか、立ち居振る舞いも言葉遣いも洗練された大人の女性を感じさせる。

しかし十年も愛人をやっていたのだ。

十年というとパパ活というお気楽なイメージとは全く異なり、二号、愛人、そんな言葉が脳裏に浮かぶ、明治から大正・昭和初期の文学で描かれるような世界だ。

こんな素敵な女性が二十三、四という若さでどうして愛人になったのか。何か特別な性癖等がありそうにも思えなかった。

疑問は湧いたが初デートでそこまで聞くのははばかられた。もし今後付き合うことになれば追々わかってくるだろう。そのパパと別れた時も、聞いた通りの美しい話ではなかったことが後でわかるのだが。

理佳子は顔も腕も肌がとても綺麗で、シワもシミも一つも無いように感じられた。

理佳子が勤める店のセレブな男性客も理佳子を指名して買い物に来ると言うし、夫婦でよく来る客も、「主人は理佳子さんのお勧めなら何でも買っちゃうのよー」などと金持ちならではのやりとりもあるらしい。

こんな女性と大人の付き合いが出来るなんて夢のようだ。

秀司はブドウの品種、特にドイツのものは良く知らないが、女将さんに勧められたリースリングがとても天ぷらに合った。丁度ボトルも空いて気持ち良くなり、食事も終盤に近づいた頃合いを見計らって、今後の二人のことを打診してみた。

「僕は理佳子さんとお付き合いしたいと思っています。でも理佳子さんは僕本人を目の前にして断わりにくいでしょうから、もし応じてくれるのならメールで連絡してもらえますか?」

「大丈夫です。私の方こそお願いしたいと思います」