医者は、マスクを外しながら、
「此処へ連れてこられた時は、わずかに心臓が動く程度で殆ど仮死状態でした。直ぐ酸素吸入と心臓への刺激にマッサージを施しましたが、未だどのように成るか分かりません、
どうやら急な呼吸不全に陥ったようです、何か悪いキノコのような物を食べたみたいですね。血液検査で反応が出たのです。直ぐ胃の洗浄も済ませました。
それでも食べてから大分時間が経っている事と呼吸不全に陥ってからも時間が経過していますから、後は、ご本人の体力次第です。ただ大変厳しい状況です」と言って、
「ごめんなさい!」と断り、二つ先の部屋へ入って行った。
良は、丸田が一体何を食べたんだろう? 悪いキノコ? あの慎重な丸田が……と思いながらも何が起きたのか、良には分かる筈も無かった……。
浩は、五反田駅に着いて、都営浅草線の改札口へ向かう階段を下りながら常に後ろに気を配り、目だけを動かして誰も付いて来ていないかどうかを確認していた。
誰かに見つめられているような気配は感じなかった。
改札口を通りホームで待っていたら、押上行の電車がホームへ滑り込んで来た。
直ぐ乗り込み、ドアサイドに立って自分を気に掛ける人間が居ないか、目を皿のようにして捜した。
泉岳寺を過ぎ、新橋駅へ電車が着いてドアが開くと時刻が遅いにもかかわらず沢山の人が乗り降りする中、浩はドアが閉まる寸前に、閉まりそうなドアを少し肘で押してホームへ降りた。
都営新橋駅を出ると、沢山の人が行き交う広い地下通路をエスカレーターで上がった。
営団新橋の改札を横に見ながら、日比谷方面へと続いている広く長い地下通路を歩いて、ホテル新橋東京の地下入り口からホテルの中へ入った。