忍び寄る病魔
四月上旬、娘の晴れの入学式を家族三人で迎えることができた。四カ月ほど前、がんと分かった時は、入学式を迎えられるとは、正直思っていなかった。
少し肌寒い日だったが、晴れて、桜が咲いていた。手術後の痛みはまだ少し残っているようだが、どことなくはしゃいでいるように見える。雲の隙間から優しい光が差し込んでいた。
「パパ、写真、写真、写真撮って!」
学校の正門の前で千恵と娘の写真を撮った。千恵が、
「彩ちゃん、誰も知り合いがいないから、早く仲の良い友達ができるといいね」と言うと、
「ママもこれから知り合いがいっぱいできるといいね」と娘は返答した。手術が無事成功し、千恵は期待に胸を膨らませていたはずだ。
入学式が終わり、川沿いにある、桜が見えるレストランでワインを頼んだ。ワインを飲みながら、私はこの四カ月を振り返っていた。
がんと宣告され、千恵と泣き明かした時もあった。千恵ががんの痛みで、終日ベッドから起き上がれなかった時、頑張ってねとしか言葉をかけてあげられなかった。
地震で辛い思いをしたこともあった。でも、今は楽しく、幸せな時間を過ごせている。明日からまだ頑張れる。
千恵は、今日のこの日を迎えることができた喜びに、
「良かった、良かった、良い一日でした」
と言った。近い将来を見通せない今、今日という日を何事もなく過ごせたことが、彼女自身にとってとても幸せに感じたのだと思う。翌日から、この言葉が我が家の謳い文句になった。