第二章 財政再建シミュレーションの検証

シミュレーション4 消費税の増税と社会保障費を削減した場合

まず一つ目の理由ですが、今まで国が負担していた社会保障費を削減すると、日本の借金の返済原資でもあるGDPが大幅に減少してしまい、かえって国債のGDP比率が悪化してしまうという事です。

シミュレーション4でシミュレートした結果、この計画を開始した二〇二〇年には、いきなりGDPが二十兆円近くも減少してしまいました。これはこの計画の本質が、今まで国が借金をしてまで生み出していた老人達の年金や介護の需要を削減するという事なので、その分がなくなってGDPがかえって減少してしまったのです。

このため、確かに毎年の国債発行額は減少するのですが、その反面、返済原資でもあるGDPが大幅に減少してしまい、国の財務内容がかえって悪くなるという結果になってしまいました。

ここが国の運営の難しいところで、一般企業の場合、財務内容の改善のためにたとえ大規模なリストラを断行したとしても、それで世間の景気が悪くなるという事はまずありえません。このため、企業の売上も下がる事はなく、リストラした分はそのまま企業収益に直結するのです。

しかし日本政府の場合は、その予算規模がGDPの2割近くにも達しているので、その赤字額を減らすために予算を削ってしまうと、その分GDPが下がり、今回のように財務内容がかえって悪化してしまう結果になってしまうのです。

そして二つ目の理由ですが、「老後二千万円問題」からもわかる通り、この計画通りで行くと、今後、年金生活者達の医療、介護、生活費が確実に足りなくなり、個人の所有している資産等を運用して、彼ら自身でその足りない分の資金を生み出していかなければならなくなるという事です。

「老後二千万円問題」とは、金融庁の金融審議会「市場ワーキンググループ」が、安倍政権が消費税を10%に引き上げた直後、今後年金額が徐々に削られていくので、老後生活を快適に送るためには年金以外に千三百二十~千九百八十万円の資金が不足するという試算を発表して大問題になった事件です。

このシミュレーションでも、二〇二〇年度の年金生活者一人に対しての国が支出している医療、年金、介護費の年平均金額は、約二百二十六万五千円だったのですが、二〇三〇年にはそれが百九十六万七千円となり、二〇四〇年には百七十七万一千円にまで減らされてしまう予定です。

ハッキリいって「老後二千万円問題」で、国民が怒るのも当然です。まずあの10%の増税は一体何だったのかという話もそうですが、そもそも、個人資産を運用して誰でも資産を増やせるのなら、日本の年金制度なんてはじめから必要ありません。

それができないので国が代わりにやっていたのではないのですか? それ以前に、個人資産を運用して老後生活の足りない部分を資産運用で誰でも作れるのであれば、国が今までの年金積立金を運用して代わりに増やせばいいだけの話です。

しかし、この二十年間の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用実績だけを見ても、現在、その運用資産が百八十六兆円以上あるにもかかわらず年四兆六千億円程度しか増やせていないのが実情です。

ここから、実際に年金や介護に回される金額はたった八千四百億円ぽっちです。しかもこの実績はコロナ禍による景気対策で、日銀が日本の富裕層を守るために市場の株を買いあさり、一時的に株高になった実績を加味しています。この数値がなくなれば、途端に運用実績の三分の一が吹き飛ぶ計算になってしまいます。

国でさえこの程度なので、介護が必要な老人達が、うまく自分達の個人資産を運用し、快適な老後生活を送るための資産形成を彼ら自身でできるとは、私には到底思えません。

以上の点から、シミュレーション4の再建計画では、日本の財政を再建する事はできませんでした。