第二章 財政再建シミュレーションの検証
シュミレーション5 社会保障費を整理・清算した場合
私もこの説については、二つの点において前々から現在の資本主義については限界を感じていました。
その問題点の一つが、資本主義社会の中では、常にその市場規模自体が成長し続けなければならない事。もう一つが、その市場で必ず負け組を作らなければならないという事です。
このため、シミュレーション4のように、誰にでも中途半端な負担を強いるようなやり方では、結局、日本の国全体が最終的な負け組になってしまうのです。
そこで現在の日本のとるべき政策は二つに絞られます。一つ目が、世界各地に存在している難民など、外国人移民者を一時的に日本に受け入れる「移民政策」です。
現在の社会保障制度がうまく機能しなくなった最大の原因は少子高齢化です。しかし、ここまで少子化が進んでしまうと、仮にどのような少子化対策を今から打ったとしても、財政再建という観点から即効性に乏しく、その効果を全く期待する事はできません。そこで、一時的に移民を受け入れ、彼らが働いたお金で年金生活者を養うという方法が一つ。
いやいや外国人の移民を受け入れるのは、どうしても抵抗があるという場合は、二つ目としていっそ年金生活者に「老後に必要な資金は自分達で何とかしてくれ」といってしまえば、現在の負け組が「日本全部」から、「日本に住む年金生活者」だけに転嫁する事が可能となります。
シミュレーション5では、国の社会保障制度そのものを清算、整理し、その今まで積み立ててきた資産を、二十歳以降の世代に今まで支払った保険料の割合に応じて分配し、その資産を使ってあくまで自分達に必要な老後資金は、自分達で運用して稼ぎなさいという計画になっています。
では、その詳細は一体どのような計画になっているのでしょう。まず現在、社会保障制度の4つの柱である「社会保険」「社会福祉」「公的扶助」「保険医療・公衆衛生」のうち「社会保険」を大幅に見直し、原則「年金」「介護」「医療」と「雇用」「労災」を引き離し、「年金」「介護」「医療」に関しては整理、清算し、「雇用」「労災」に関してはその費用を今後は国の一般会計として国が賄うという内容になります。
また、現在「医療保険」についてはその運営主体が地方なので、その資産、及び、経営内容の正確な数字を把握する事が非常に煩雑なので、今回はとりあえず公的年金に話を絞って清算した場合のシミュレーションを組んでみました。
すると、現在、公的年金である「国民年金」と「厚生年金」両方の資産を運用している「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」の運用資産は、二〇二〇年の段階で約百八十六兆円あり、その他に所有する不動産が簿価で九百三十億円(2017年時点)ほどあります。
この資産は、全て現金で持っているわけではないので、一旦、その金融資産を日銀に買い取ってもらい現金にします。なぜなら、これだけ莫大な金融資産にもなると、簡単には現金には換えられないからです。
仮にできたとしても株式などの金融資産が暴落し、市場が混乱する可能性が生じてしまいます。それを回避するために、一旦、日銀に日本の公的年金の資産を全て買い取ってもらう必要があるのです。