君江は自慢げにそう話した。俺は居間に戻ると、「ありがとう」と母に言った。少し照れくさかったが。

千香子も「お義母さんありがとうございます」と頭を下げる。妻が母に感謝の言葉を述べるのは珍しい。

「礼には及ばん」

素っ気なく言うも、母の目尻は下がっていた。

「純平、よかったじゃないか。天神様を守ることができて」

俺は決意を新たにした。青松家の大黒柱は自分。もっとしっかりしなければ、と。

「天神様って?」

千香子が質問してきた。俺は向き合い、真面目な顔つきになる。

「俺、突っ張るのはやめようと思う」

「突っ張る? 意味がわからない」

「プライドを捨てるってこと。再就職先を探してるけど、大企業で働いていたというプライドが邪魔をしてちっとも良い仕事が見つからない。でもそんなんじゃダメだと思うんだ。なんでもいいから早く職に就いて家族を安心させたい。昨日とは違う生き方見せたいと思う」

決まった、と俺は思った。だが――。

「なんでもいいなんてダメよ。まさか新聞配達や清掃をやるって言うんじゃないでしょうね」

「その仕事をしている人に失礼だろ。職業に貴賤はないんだから」

千香子は唇をすぼめるも、ムキになって言う。

「でもあなたはダメ。給料の良い仕事じゃなきゃ。マンションも高級車も手放した今、売るものは残ってないのよ。これ以上、生活レベルを下げられない」

なぜだかわからないが、青松家は女が強い。母しかり、亡くなった祖母しかり。俺の人生は千香子の判断に委ねられるのだろうか。そう思うと急に空しくなった。

家族に、とりわけ妻に対する愛にブレーキがかかる……俺はまた軽いめまいがした。同時に、バイクの後ろに乗せた女の子の顔がフラッシュバックする。

千香子? マドンナ美保?

ぼやけていた顔が徐々に鮮明になる……千香子だ。俺は家族を幸せにすると誓った。かかあ天下でも構わない。

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