邂逅

穏やかな日が続く。英良はジョギングシューズを履き早足で目的のない散歩を行った。車の走り抜ける音、路線バスを待つ人、郵便配達人が郵便物を集配している。

青い空には雲が点在している。英良は雲をずっと見ていたが全くといっていいほど原型をとどめている。

地球の自転速度は秒速四百六十メートルだから上空ではかなりの強風が吹いているはずだ。数分して雲はキャンバス上の白い絵の具を引き伸ばしたように細長く変わっていく。地球の自転軸と時間軸と連動して人々の営みは普遍的に続く。

英良は久しぶりに近くの公園までウォーキングした。顔に当たる風は冷たいにせよ心地良かった。ベンチに座ってミネラルウォーターを飲み一息ついた。ぼんやり空を見上げ雲を見ていた時のこと。

足下に違和感があり、目を下に向けると一匹のトイプードルが英良

の足首の匂いをかいだり、前足を彼の足の甲に上げたりしていたのである。英良はその犬を抱き上げた。

「すみません」若い女性が近づいてきた。

「おいでマカロニ」英良の手から犬を抱き上げ彼女は言った。

「マカロニって名前ですか?」

「はい」

「人見知りをしないんですね?」

「そうでもないです。この子は人を選んで近づきますよ……」マカロニが飼い主の左顎をなめていたので、彼女はそれを避けながら話した。

「飼っているのですか?」

「はい。趣味も職業もこれですから」彼女は両手でマカロニを抱きながら答えた。

「えっ?」

英良が聞き返すと「仕事が獣医なものですから……」彼女は答えた。

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