はじめに

この著書は、私の経営コンサルティングの中から「事例に学ぶ」と題して北大阪商工会議所所所報“NORTH”に連載した記事が100回に及んだのを機会に、幻冬舎ルネッサンス新社様のご支援を得て国内企業、特に中小企業の利用に供すべく出版されることになったものです。内容は、製造業のみならず、販売業、運送業、造園業、サービス業等々、多業種にわたり、具体的な成功事例を掲載しています。

企業は今まさに“働き方改革”を求められています。然しそれは、申すまでもなくただ徒に形だけの改革を導入しても成果が上がるものではありません。生産性向上によって経営体質を強化してはじめて可能になります。

一方、生産性向上とは言っても、特に中小企業では一体どのように進めるのか、どこから手を付ければよいのか理解できずに困っておられる会社が多いのではないでしょうか。

この小冊子は、そんな期待に応えることを願っています。前述の通り事例は業種を問わず規模の大小を問わず多方面にわたっています。その中から生産性向上に成功する共通の視点やヒントをつかんでいただければ、必ずや読者企業の生産性向上の成功に寄与すると確信いたします。

ご参考のため、私が三洋電機在職中に事業部を再建した経緯を紹介します(詳細は“三洋電機事業部改革 感動の軌跡―折り重なって前へ行け” 日刊工業新聞社版)。改革手順をご理解いただくうえでご参考になれば幸いです。

当時、事業部は、毎年品質不良を起こし、営業第一線の信頼を喪失するという深刻な状態でした。そこで営業の責任者で製造の経験がなかった私があえて志願して、7月21日付という異例の時期に事業部長に就任しました。

赴任してみると、状況は予想以上に深刻でした。不良返品された売り物にならない商品が、新設した倉庫に積み重なって蔵置されていました。これを資産計上していましたので表面上は黒字でしたが実質は大幅な赤字経営でした。

また今、働き方改革で問題になっている残業は、“残業代で車が買える”という風評が立つほどの状況で、社員は多忙を極めていました。更には工場の周囲にはたばこの吸い殻が散見されるという状態だったのです。これを、製造経験のない私がいかにして改革再建するかが問題でした。

課題の第一は、社員の意識改革でした。その年の十一月、製造部の起案で4S(整理、整頓、清潔、清掃)を導入しようとして先生が現場視察に来られましたが、まず先生に4Sの進んだ向上を紹介していただき見学会を行うことにしました。製造のメンバーを中心にバスで2回に分けて合計120名の見学会でした。

結果は大成功で、社員は「本当に自分たちで工場を変えていいのですか」と言いながら嬉々として改善に取り組んだのです。そして、現場視察から一か月経過した第一回4S研修会で、視察の時には「これは初歩からのやり直しが必要だから改善には時間がかかりますよ」と言われた先生が「僅か一ヶ月でここまで変われるものか」と驚嘆されるほど工場が変わりました。

改善をして環境が変わり、変わった環境がまた意識を変えるという好循環で、改革に向かう社員の意識は日に日に変わり高まっていきました。

“改善の行動が環境を変え意識を変える”

“変えた環境がまた意識を変える”

ことを実感した経験でした。

第二の課題は、工場の残業過多や品質不良に代表される“生産性悪化の核心的原因は何か”ということでした。

原因は多々考えられましたが、核心的原因は取り扱い機種の多さでした。トップメーカーに比して売り上げは半分で機種の数は2倍、一機種当たりの生産性はなんと四分の一だったのです。そこで、2年間で機種数を二分の一にするという目標を設定しました。然し営業第一線からの抵抗は極めて大きく、営業の窓口で対応した担当部長には大変苦労を掛けました。

それでも機種数の削減が生産性を高め、競争力を強化し、ひいては顧客満足度を高めるためのカギになると確信していましたので、決して機種数半減の方針がぶれることはありませんでした。結果、赴任して初年度に単年度黒字を達成、2年後には機種数半減に成功して、残業ゼロ、品質大幅改善を果たし、取引先に「“燃える軍団”になりましたね」と言われるようになりました。

以上、私の事業部改革の経験を述べましたが、実は今私が企業の生産性向上を支援しているのも同じ視点や手順に依っています。読者の皆様にはこの小著に掲載した生産性向上の成功事例を通じて、その基本的な視点や手順を読み取っていただければ幸いです。そして、読者企業様の生産性向上に、ひいては真の働き方改革に資することになればそれに勝る喜びはありません。

次に、生産性向上、或いは競争力向上を進める基本的な手順を原則論として整理して記述します。

第一、生産性向上を遂げる核心的問題を把握する
・経営の視点で検討する
・顧客満足度向上の視点で考える
Q:品質、商品、技術
C:生産性、価格競争力
D:納期、工期
S:サービス(サービスはスピードが第一)
・競争力強化の視点で考える
・的確な現状分析に基づいて検討する

第二、目標を設定する
・目標は数値で ―数値であればこそ成果をチェックできる―
・挑戦的で大きな目標を設定する
・大きな目標ほど課題が見える、社員の力を引き出せる

第三、目標達成のための具体的行動計画を立案する
・ダレが、いつ、どこまで、やるかをスケジュール化する
・全員にもれなく役割を分担させる

第四、達成状況を毎週、或いは毎月チェックする方法を計画する
・グラフや、色表示など“見える化”の工夫をする
・達成状況を全社員に公示する、人は公開されたものに優先して取り組む
・チェックが達成を約束する、チェックをしなければ達成できない。

第五、社長以下全員で取り組む
・社長の強いリーダーシップがあればこそ社員のやる気を引き出せる
・組織横断的に活動する、組織間にも問題が多く組織間の協力が不可欠
・全員でやるから会社が変わる、自分だけやっても変わらないと思っている

この小著は、すべてを読まれる必要はありません。関心のある個所を選んでお読みください。何らかのヒントが得られるものと確信いたします。一社でも多くの企業様が真の生産性向上を遂げられ、働き方改革に成功されることを心より切に願っています。

令和二年六月 平石経営研究所代表 平石奎太