そんな二人の話を聞いていた桜田が
「だったら、このF刑務所を売り払ってお金を工面して、土地の安い限界集落になりそうな離島に今の数倍規模の刑務所を造ってはどうですか? 私事で恐縮なんですが、最近物件を購入したのですが都心の物件は値上がりしていますよ。このF刑務所の土地はざっと八万坪でしたよね。坪単価一〇〇万円で売れれば八〇〇億円を捻出できます」と言い出し、それを聞いた所長の須崎と団は余りの突飛な発想に二人とも茫然自失となっていた。
先に我に返った団が
「確かに刑務所が都内になければならない決まりはないから移転させるという案はありかも?」と言うと
「ここが民有地という事になれば国としては固定資産税や事業税を生み出してくれる事になり、財政上の打ち出の小槌になります。刑務所では固定資産税も事業税も発生しませんからとてもいいアイディアですよ」須崎も賛同してくれた。すると団が
「この間、目を吊り上げて私の部屋へ来た時は、生意気な出しゃばり女でいけ好かない女だと思っていたけど、こうやって親しく話してみるとサバサバしていて気っ風のいい、粋な女性だね、桜田警部は……」と言い出した。すると桜田がそれに応えて
「こっちこそ、人が大変な思いをして、捜査して送検したにも関わらず、しれっと訴因変更なんて姑息な真似して不起訴処分にしてしまう陰険で慇懃(いんぎん)無礼な検事と思ったけれど、一端に正義感は持ち合わせている様ね。少し見直したわ」と言い返したのだ。
すると団が禁句を持ち出してしまった。
「だいたい桜田という苗字だけでも警視庁を連想するのに、名前の警子のけいの字が普通は恵か慶とか圭なのに警察の警って、警視庁の権化(ごんげ)じゃあるまいし、よくそんな名前付けたよな」と口にしてしまったのだ。
即座に桜田は
「あっ、名前をディスるって、検事のくせに人権問題だ! そもそも名前は親が付けたもので私にはどうする事もできない問題なのにそこをディスるとは明らかな人権侵害だと思いません? 須崎所長」と須崎に人権侵害としての賛同を求めた。
【前回の記事を読む】「刑務所が足りない!」どこの刑務所も定員二、三割オーバーで国際的な人権問題に!?【小説】