「昨日、五反田にいたよね」

午後の授業。亜矢に会ったとたんにそう質問され、わたしは思わず「はい?」と聞き返した。忘れかけていた、昨日どこそこにいたよね? 問題が再燃するとは予想もしていなかった。

「いないよ」

すぐに答えたが、亜矢は疑いの眼差しを向けたままだ。

「しかもまた無視してさあ。ちゃんと、まゆ実、って呼んだんだよ。ていうか、なんで昨日は金髪なの? あれ、ウィッグでしょ」

スプリングコートの金髪女が、フラッシュバックする。

「えっ、本当に?」

わたしはぴくりと片眉を上げた。

「それはこっちのセリフ」

亜矢が膨れている。

「まゆ実ならわかってるはずだよね。わたしと五反田の関係」

「えっと、バイト先だったっけ」

「そう。だから昨日の金髪女は絶対まゆ実」

「いやいや、だからわたしじゃないって」

「まゆ実じゃなきゃ、誰だって言うのよ」

「千春じゃない?」

「一度はそう思った。でも千春ちゃんはわたしが五反田でバイトしていることを知らないじゃん。それでさっき千春ちゃんに偶然会って同じ質問をしたの。そしたらなんて言ったと思う? 自分じゃない。まゆ実先輩じゃないんですか?って」

「本当に?」

またぴくりと片眉が上がる。

「だから、それはこっちのセリフ!」

青筋を立てている。今回で四回めだから怒るのは当然だ。正確には、三回めの正体は千春だったけど。仏の顔も三度まで。こう立て続けに無視されたら、誰でも気分を害するだろう。

「あれは」

と言いかけて、わたしは口を閉じた。金髪女はツイン・ファクトリーのあかねだと思われるが、彼女の存在を言えなかった。言ってしまうと「会いにいこうよ」となるに決まっている。

わたしは会いたくないのだ。

「あれは、って?」

「別に。なんでもない」

「言ってよ」

「だからなんでもないって」と突き放すように言った。

「あ、そ」

亜矢は呆れた顔をし、離れた席に座った。