急にドアをドン! ドン! とノックする音が響き、浩は吃驚してブリーフケースをもう少しで手元から落とすところだった。

ノックの後、「届け物です!」と言う声が聞こえた。

浩には届け物が来ることに全く思いつかずしかもこんな遅くに……一瞬で不安に成り、何故か恐怖が襲って来た。じっと固まって、黙ったまま動かずにいると又、

「届け物です!」

と言う声とドアをドン、ドン! ドン! とノックする音が聞こえた。

浩が応えずにいると、今度は更に強くドン! ドン! とノックしながら、

「届け物です!」と大きい声で何度もドアを叩いた。

すると隣のドアが開き、

「もう少し静かにしてくれませんか? 今、不在なんじゃ無いですか?」と声がした。すると、

「お宅! 宅急便の制服を着てないし、何も持ってないけど……何処の会社?」と聞いていた。男はそれに答えず、

「不在なら又来ます!」

と言って、エレベーターの方へ小走りで向かって行った。

「変な奴!」

と言う声が聞こえ、隣のドアの閉まる音が聞こえた。

浩は、ゆっくりとドアの方へ向かい、ドアレンズを覗いて外の動きを見た、廊下には誰も居なかった。

そう言えば、「届け物」と言った男は一度も俺の名前を言わなかったな、と思い出し、たまに来る届け物の時は、必ず、

「田賀さん、届け物です!」と名前を呼んでいた。

そう思いながらさっき聞いたやり取りを思い返した。制服も着ず、何も持っていない……ということは何者だ? と思った途端、ブリーフケースに目が行った。此れだ! 間違いない!

このブリーフケースを取りに来たんだ!

一体、あの男と死人とはどんな関係があるんだろう? それにカバンのことは言わず、届け物です、と言うのは……。しかしどうして此処にブリーフケースが有ることが分かったんだろう? それが不思議だった。

南船橋駅を出てから目立たないように、五反田のマンションまで来たと思うし、時々振り返りはしなかったが、周りを十分気にしていた中では誰も追って来る気配は感じなかった。

どうして? ひょっとしたら、ブリーフケースの何処かに発信機が取り付けられているかも知れない……。

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