実家までの片道約一時間強の電車の中、私は「九条みゆき」と検索し、その人物のSNSを必死で探していた。そこまでありふれた名前ではないと感じていたが、検索をかけると同姓同名のアカウントが数多く表示されてしまい、本人にたどり着くことは容易ではなかった。

名前だけで探し出すことを諦めたとき、ふたりが同じ高校出身だったことを思い出した私は、検索ワードに母の出身高校の名前を追加し、祈るような思いで再び検索をかけると、とある人物のアカウントがヒットした。

黒いロングヘアの女性と、彼女と同じほどの齢の男性が寄り添い笑うプロフィール写真。そしてその下で親切心と主張を以って並べられた「旧姓・九条」という文字列。

母は、ミユキさんを追いかけて家を出た。そう信じ切っていた私の心は混沌の淵に立たされ、高校二年生のあの日に見てしまったあの写真が、疑念の渦となって再び脳内を占拠した。

父が不用意で無神経な言動を見せるたびに、私はいつか母が、ミユキさんという本当の愛の居場所へ逃げ出してしまうことを、あの日からずっと恐れてきた。しかしながら、それは深い過ちだったのかもしれない。

動揺や混乱を通り越し、私は呆然としてしまい、電車の中で送るはずだったミユキさんもしくは母宛てのメッセージを作成することすら損ねてしまった。

「母さんと連絡はついたか?」

扉を開けるなり、父は期待と不安に満ちた声で、玄関に立つ私に呼びかけた。父の下まぶたには薄っすらとクマができており、目は赤く充血していた。

「ううん、まだ」

「何か、心当たりはあるか?」

玄関を抜けリビングに入ると、父が脱ぎ散らかした服や、キッチンのシンクには使いっぱなしのグラスとマグカップ、インスタントカレーの汚れが付着した皿が、水にも浸かれぬまま置き放たれていた。

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