三限目で亜矢に会うはずだから一限目のノートのコピーをもらえばいいや。あかねのことはサークル活動のときに千春に聞くとしよう。千春なら彼女を知っているはずだ。わたしは寝間着のまま階段を下りていった。
しかし、リビングに母の姿はない。奥のほうから何やらごそごそと音がする。リビングを通り抜け、母の部屋に向かう。
一階には両親の部屋が三つ。父の部屋は母と兼用の寝室で、残りの二部屋を母が使用している。ひとつは衣服と化粧品がズラリと並んだ美魔女部屋。もうひとつは汚部屋だ。
母はいわゆる片づけられない女。引っ越すときに思いきっていらないものを処分すればいいものを、母は「もったいない」と言って転居先まで持ってきた。いまだにダンボール箱を開封していないものがある。
母曰く、汚部屋には明らかに不要とわかっているのに捨てられずに保管しているもの、使わないけどいつかプレミアがついて高値で売れる可能性があるもの、使うかどうかわからないからとりあえず保管しているもの、いつか使おうと思いつつ忘れているもの、が足の踏み場もないほどにあふれている。
テレビ番組でよく見るゴミ屋敷のような汚さではないものの、コレって本当に必要なのかな、と思うものがある。
例えば、携帯電話の端末。母は機械に弱いのでガラケー派だが、新しいモデルが発売されると「故障して使えなくなるのが嫌。新しいのは壊れにくいでしょ」と言っては機械オンチにもかかわらず機種変更し、古いガラケーを捨てずに持っている。
コレクションとして保有している人はいるが、わたしはどうかと思っている。だが、そんな母に便乗して新機種の恩恵にあずかっているちゃっかり者のわたしは、文句を言えないでいる。
PTA時代の書類もそうだ。中学校のPTA会長を最後に、教育現場を引退して七年も経つというのに、会議議事録のコピーや会報などが未だにある。
さすがにPTA関係者の連絡先など個人情報満載の書類はシュレッダーにかけたみたいだけど。書類の保存期間が何年かわからないのでなんとも言えないが、わたしは「いらないのでは?」と思っている。