第一章 壊れた家族
その後、船長が来て、飲酒航行について厳しく咎められたので祐一は頭を上げることができなかった。ただし、助けられていいことばかりではなかった。この事故のことは、船医のジョン=スミスが直ちに日本に船舶電話で通報した。
泥酔状態で太平洋の真っただ中を漂流した祐一の事故は事件でもあり、テレビを始め、新聞などのメディアで、「沖ヶ島の泥酔した漁師小川祐一」の名は日本中に知られることとなった。
アメリカの大型輸送船と祐一、そして曳航された船は、目的地の横浜本牧ふ頭に入港した。祐一は、まず本牧ふ頭から近い横浜港病院まで救急車で運ばれた。
急性アルコール中毒で漂流していたのだ。まずは診察と検査入院ということになった。急性アルコール中毒には後遺症が残る場合がある。軽度なものから重度なものまで様々だ。
重度な場合は記憶や行動に障害が残ることもある。祐一の場合はあまりにも短時間に飲み過ぎたので急性アルコール中毒での後遺症が残ることとなった。遂行機能障害である。
遂行機能に障害が出てくると物事を順序立てて実行することが難しくなり仕事や家事など段取りが悪くなるような後遺症がこれから出てくることになる。一つの行動ならできても、二つ以上の行動になると同時にはできないなど作業が非効率になるような後遺症だ。
その頃、家では智子が体調を崩して寝込んでいた。もともと生まれつき病弱であったのに加え、祐一が帰ってこないことを心配して心労で寝込んだのだ。時々こういうことはあるのだが、今回は重かった。そこへ警察から「ご主人は無事です」と一報があった。智子は心から安堵した。
「主人の体調はどうなんですか?」
「大丈夫です。自分で歩けます。ただし、ご主人は大量に飲酒され倒れた状態でアメリカの輸送船に発見されました。その輸送船には船医がおりまして治療を受けることができました。ただし、急性アルコール中毒の後遺症が残るかもしれません」
「そうなんですか? 私は迎えに行きたいけど今、体調を崩して寝込んでいます」