煙が収まった後に立ち尽くしていた致嗣はどことなく佇まいが違っているように見えた。……何となく声を掛け難くて、そのまま見ていると、左右に首をひねり、何かを探しているのか辺りを見ていたが、随分落ち着いた声音で聞いてきた。
「ここはどこだ!」と、何を言ってんの! 八幡社だよ。煙で燻(いぶ)されてボケたのか。
「お目覚めで御座いますか、致高様」とタマ。
えぇ! もう憑依してんの? 何か簡単すぎて実感が湧かない。
「蔵人、お前なのか。……私は死んだはずだが……生き返ったのか」と致高。
「残念ながら、お命は尽き、すでに六百年余りの時を経ております。今のお姿は末裔である者。呼び覚まし申し上げた御霊を乗り移らせたので御座います」
タマの説明に聞き入る水野致高様。雰囲気的に神々しいわと私は思うのだった。
「蔵人、城はどうなった、叔父上は家臣たちは……水野家はどうなっている」
「お答え申し上げます。お城は廃城となり、その城址にこの八幡社が建っております。叔父君の致国様は致高様が御逝去になり、家督を継がれるも間もなくお亡くなりになり、ご子息様も次々に身罷られました。家臣の方々も次第に離れられ廃城となりました。今は城主となるような水野家は存在致しませんが、本流傍流と幾筋家の水野家は御座います」と静かな声音でタマは話している。
杜の緑が影を作り暑さを和らげ、心地いい風が致高様の髪をなびかせている。
少し強めの風に、目を瞬かせながら、「……なぜ今になって私を呼び覚ました。蔵人、お前は今何をやっているのだ」と致高。
「私めは先ほど申し上げました、城跡に建てられた八幡社に致高様と卑弥呼様の御霊を納めさせて戴き、この社の守り番となり日々を過ごしておりましたが、ここに控えます傍流では御座いますが、水野家の末裔、洋子なる者が、是非に致高様をお慰め申し上げたいと切に願いますもので、このような事に相成りました」とタマは言いながら、私の方に顔を向けた。