我輩は清掃人じゃ
3.安住隆史との邂逅・第二段階突破?
咀嚼を終了し、開けっ放しにしてトイレで用を足しておると、玄関のドアをノックし、我輩の名前を呼ぶ奴がおる。
「どなたじゃ?」と我輩のよく通る声が、トイレ内で響き渡る。
「書留でーす」
「今、トイレじゃ。少し待ってくれるかの。申し訳ないの」
向こうさんも急がせずに配慮してくれ、よく通る大きな声で、ごゆっくり、とありがたく言っておる。
トイレから出て手も洗わず、両足をひょこひょこしながら玄関に向かう。ロックを外して配達人の顔を見ると、意外なことに、顔には皴、髪には白髪交じりなので、七十を過ぎたくらいの女性に見受けられたのじゃ。
「遅くなってすまぬ。ところで、お主の年齢を訊いてよいかの?」
「二十三だよバカヤロー! 何か文句あっか!」
「すまぬすまぬ。あまりにも老けておったので訊いたのじゃが、とんだご無礼じゃった。いやはや。おなごっちゅうもんは、おっかないのう」
「あたりめぇだろう。早くサインせぇよ。あたしの顔が、そんなに醜いか。さっさとサインしたらどうなん」
「本当に申し訳なかった。気になさらずに」
サインを終え、配達員とバイバイし、ドアを閉めて、差出人さえ確認せず、封筒の口をびりびり破る。現金など同封されておらず、まっさらな用紙が入っておった。ナンボ入っておるのか? 現金書留に用紙が同封されておるのか?
我輩は、面接時の会話をプレイバックすると、無理だったかのうと落胆しながら広げて目で追った。次の瞬間、飛び上がってしまったのじゃ。
何と何と、採用されるっちゅうことじゃ! ついに我輩の夢が叶ったのじゃ。
じゃが、待てよ。ここで浮かれてて、働き始めても、足を引っ張る馬鹿どもが社会に蔓延してるだけでなく、上司や先輩からのしごきがあるかもわからん。じゃがの、我輩の人生経験から、負けぬ技術はきちんと習得しておるのじゃ。決して殴り合ったりせず、気を利かせて、温かみのある会話から、他人様との輪が構築されていく。
ということで、就職が決定し、仕事にありつけるようになったのじゃった。それからとんとん拍子で進んでいって、いよいよ今日からっちゅうことで、仕事場まで赴いたのじゃ。
面接時の部屋で挨拶を済ませ、あのときの担当者と別のビルの現場までご一緒すると、先輩格の男が一人、我輩の到着を待っておられたようで、入口でぼさーっと突っ立っておる。
初対面であるうえ、向こうさんはこの場の先輩。礼儀作法はしっかりしておかんとな。