「我輩は、大人輝男と申す。これから、よろしゅう頼んます。お主のお名前を伺ってよろしいかの?」と言いながら我輩は右手を出し、握手を求めた。

「安住隆史です」

一見イケメンだが、ニヘラニヘラしていて、ノリが軽そうで、少々、抜けておるようじゃ。面接んときの担当者から耳にしたのじゃが、十八歳で、高校でさえまともに行っとらんそうじゃ。

出された我輩の右手との握手をシカトし、初対面でこれでは、先が危ぶまれる。小生意気じゃの、まったく。年上に対する礼儀がなっとらん。

「それじゃ、安住さん、大人輝男さんに、仕事の段取りなど、丁寧に説明をお願いしますね。私は事務の処理が忙しいから、あとはよろしく。ときどき確認に来ますよ」

こういうとき、この、小生意気イケメン安住隆史は、今どきの十八歳だからか、返事をせん。無礼な若造じゃ。我輩が鍛えてやる。先輩からの、人生におけるアドバイスじゃ。

「安住殿。まずは何をどうやるのじゃ。我輩は清掃のお仕事はしたことないのじゃ。適格に教えてもらわんば、職務をまっとうできん。丁寧にお願い申す」

「じいさん。いや、大人さんだっけ。まずは地下まで下りますよ。足のほうは大丈夫っすか」

「何とか」

「とにかく、ゆっくりね、ゆっくり下りてね」

「随分と気を使ってくれるのう。ありがたみあるお言葉、申し訳ないのう」

「気にすることないっすよ。ここでは俺がいちおうの先輩だから言ってるだけだし」

この安住隆史っちゅう少年、意外と優しい性格をしておるかもしれんな、と我輩は、直感で思い直したのじゃ。

地下一階まで下り、狭い踊り場らしき場所に着き、縦一メートル、横八十センチほどのドアをキーで開ける。宝探しみたいじゃ(笑)

「ここに箒やちりとり、モップ、バケツ、雑巾などが揃ってます。キーは俺が持ってますよ。場合によっては、一時的に貸したりすることもあるかもしれませんけどね。汚くて誰もしたがらない仕事、それが清掃だけど、綺麗にしましょ。床がピカピカに光れば、やりがいを感じるものですよ。

これだけは言っときますよ。さっきの人、真面目に仕事しないと、蹴りを入れてくる場合もありますからね。パワハラですけど、過去にキックボクシングしてた人だから、本気で怒らせると、ボコボコにされちゃいますよ。俺なんか仕事をさぼってたら、ローキック食らって、レントゲン検査で確認したら、左脚にひびが入ったことがあるんですよ」

「おっかないのう。人は見かけによらんのじゃが、救急車は呼ばんかったのか? 警察に通報は?」

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