我輩は清掃人じゃ
2.いざ、面接へ︱第一段階突破?
「ほう。職歴を見させていただくと、三十回以上も職を転々とされたわけですね。夜の繁華街でフォークギターを持って流しをしたり、新聞の配達をされたりなど、豊富なご経験をされていると。私どもの今回のお仕事ですが、おわかりだと思いますが、ビルの清掃です。失礼ですが、足に障がいがおありのようで。清掃は楽ではありません。箒や濡れたモップ、水の入ったバケツ、階段の上り下り、しゃがんでの床磨き、トイレで汚物の処理などもあります。できますか?」
「言うのう。我輩は足が悪くとも、人生にギブアップなどしておらんのじゃ。やればできる。何事もできないなどと言っていては、そこで終わりじゃ。何物にも負けぬ意地があれば、現状を突破できると信じておるのじゃ」
「素晴らしいです。土日も出勤できますか?」
「いや、平日のみじゃ。土日祭日は働かん主義じゃ」
会話が円滑に進んでいたが、担当者は呆れた顔つきになって、息を吐いたのじゃ。
「何か悪いこと言ってしまったかの」
「いえいえ。ただ、土日も出勤が可能ではないと、難しいですよ。他にも希望者がたくさん、いらっしゃいますしね。今一度、ご検討をお願いしたいのですが」
我輩は天を見上げた。天と言うても、天井じゃが(笑)
「わかった。わかったのじゃ。じゃがの、なるたけ、土日祭日の労働は、遠慮させていただきたい。我輩の、精一杯のお願いじゃ」
そんなこと、と思われたかもじゃが、担当者は、「採用の是非については、後日、お知らせいたします。気をつけてお帰りを」と冷たく放つのじゃ。それも粛々と諭すように言うものじゃから、我輩は、すでに蹴られたと勘違いしてしもうて、うつ状態になってしまい、ろくに挨拶もせずにその場をあとにしたのじゃった。
あれはまずかったと、あとから後悔したのじゃ。一瞬たりともその場をともにした人間に無礼じゃったと反省もした。採用は無理そうじゃったことから、奇跡でも起こらんかのうと、神に祈りたい願望さえわいてきたのじゃった。
神、神いうても、我輩は正統派の無神論者であって、そちら側の方たちに敵意はない。宗教でも信仰や信心しておる方の邪魔はせんのじゃ。宗教は元々、人の心を助けてくれてきたわけじゃからの。悪いことではないのじゃ。