「ワルツさんの秘密」

歯ブラシとタオルと一個のバケツを持ってカトリーヌがワルツさんのところにやってきたのは、牧師さんがこの島を出ていった日だった。

ワルツさんは横目でちらっとカトリーヌを見るなり、「まずはカトリーヌ、床屋に行くことだな」と言って、ズボンのポケットから小銭を出した。

僕は結構気に入っているんだけど、カトリーヌの髪。こざっぱりしたカトリーヌはカトリーヌらしくないよ、ワルツさん。

「床屋は行かなくてもいいよ。私、自分でどうにかするから。ありがとう、ワルツさん」

牧師さんの奥さんが死んだ朝、僕は裏木戸から抜け出し教会に行った。気になることがひとつあったんだ。

教会に着いて僕は奥さんの寝室の窓に向かった。この時間、カトリーヌは教会の祭壇を設えているはずだったから、僕はカトリーヌを探さなかった。

窓枠に両手をついて顔を窓ガラスに寄せると、牧師さんの立っている足元に倒れている奥さんが見えた。

奥さんが胸を掻きむしり、牧師さんのズボンの裾を右手でつかんで、ぐいっと何度も引っ張っている。そして苦しそうに顔を歪めて牧師さんに何か言っていた。

牧師さんは立ったまま奥さんを見下ろしていたけど、しばらくすると奥さんからつかまれていたほうの足をすっと振り切って寝室から出ていった。

【前回の記事を読む】天罰が下った牧師の奥さん。不幸中の幸い、島を出るのが延期に

※本記事は、2021年12月刊行の書籍『カトリーヌと囁き森』(幻冬舎メディアコンサルティング)より一部を抜粋し、再編集したものです。