第一部
六男 八郎 ── 親愛なるわが父
初 恋
吾は二十五七月の
黄塵暗き宵なりき
戦友(とも)と別れて唯一人
飄々兄を尋ね来て
君に巡りしその日より
義姉と呼ぶ身の我なりき
我は二十五八月の
徐州は熱き宵なりき
風なき庭に蓙を敷きて
一番星の出ずるより
七つの星の落つるまで
何か忘れし夢を見き
何か忘れしそのことの
あまりに遠き夢なれば
瞳も草も枯れ果てて
醒めて寂しき初恋の
浴衣すがたの徒人は
義姉とは呼べる君なりき
八郎の詩は延々と続く。