第2章 家族 ~私を支えてくれた人たち~
焦げ目も味
我が家のビデオは料理番組でいっぱいだ。ケンさんがコツコツと録画をしている。その中の一つに冬に美味しい長ねぎを使った料理がある。5センチほどにカットしてフライパンで焼く。混ぜたりせずにフライパンの中でそのままじっくりと焼く。
裏返したら美味しそうな横一文字の焼き目が白いねぎに付くまで2~3分だろうか、「シンプルに塩コショウで十分だな」と心の中で思いながら、ケンさんの再生を横目で見ていると、ワンシーンと言葉が頭に浮かんできた。
焼き目焦げ目で思い出す。「焦げ目のある物が先に売れる」鳥モモ焼き屋さんのおばあちゃんの言葉だ。息子たちが小さい頃は仕事帰りに買っていた店で、ガラスケースの中に「塩」「甘味」の表示で分けて並べていた。
ケースをのぞきこむと腰の曲がったおばあちゃんが出てきて「甘いの? しょっぱいの?」と聞いてくる。鳥モモのサイズが小さく一人で2本は食べる。当時は四人分で一人2本だから8本を選ぶため、ちょっと迷っているとお店のおばあちゃんは「だいたい焦げ目のある物からなくなるんだよ」と声をかけてきた。
「やっぱり、焦げ目は美味しそうに見えるんですね」「そうだね」と会話したことを思い出した。ガラスの上から「これとこれとこれ……」と指をさす。年末のクリスマスには8本の鳥モモがテーブルに並んだ。
直太朗が自立し三人家族になってからある晩のこと。生協で買った美味しい焼き鳥があり、焼いて一つ盛りの大皿に出すと、そこでも焦げ目のしっかりとついている物から手に取っていくのが面白い。お店のおばあちゃんの言った通りだ。
ある日ケンさんが作った「ねぎのお焼き」が出てきた。酒のあてにピッタリで、ねぎの青い部分を千切りでたっぷりと使い、桜エビやじゃこと一緒に焼いてポン酢で食べる。もちろん茶色の焦げ目は香りも味も良い。ケンさんは「自分が食べたいだけ」と言いつつも家族のために美味しい物を作ってくれる。感謝、感謝である。
ねぎから連想するのは義父の手作り野菜で、生前は毎月出雲から東京に山ほど送ってくれた。長ねぎの青い葉は切らずに、長いまま折りたたんである。白菜、大根、かぶ等の冬野菜や、春には柔らかく甘いキャベツや絹さやえんどうが入っている。箱の中から季節が感じられた。