ムンゴは、また、びくりとしました。心臓の音が早くなりました。
口に付いていた、木の実の真っ赤な汁を腕でこすりました。
それを見ていたブギーは、
「ムンゴ、木の実はもう全部、たべちゃったんだろう」
ムンゴは、つばを飲んで、おそるおそる頷きました。
ブギーは、笑って許しました。
「もう、しょうがないなあ。また、来年まで待つとするよ。そのカゴ、村へ行ってエイミーに届けてくる。あの子がいつも大切にしている物だから」
風が吹いて、エイミーのカゴが転がりました。
ブギーがカゴに手を伸ばすと、ムンゴは俯きながら言いました。
「行かないで。兄さん」
「なんで。今頃エイミーが困っているだろう。カゴを探しているかもしれない」
ブギーは、カゴを拾いながら言いました。
「だめだ」
ムンゴの息づかいが荒くなりました。
「ねえ、ムンゴ。何かあったのかい。お前、さっきからおかしいよ」
ブギーが、俯くムンゴの顔を覗きこんで尋ねました。
「もう、だめだ」
ムンゴの体が、大きく震えました。
次の瞬間、ムンゴが頭のツノをブギーに向けて、突進しました。
ブギーは、ムンゴの体当たりをかわしました。
「ムンゴ、どうしたんだ」
ムンゴは、鼻息を荒くして、答えようともしません。
目の色が変わり、背びれを鋭く逆立たせ、我を失っていました。
ムンゴは、もはやムンゴではなくなっていたのです。
ブギーはふと、エイミーのカゴに目をやりました。
そして、ムンゴの口元に付いた赤い汁を見ると、
「まさかお前」
ブギーの心は一気に破裂しそうでした。ムンゴは空腹のあまりエイミーのことをたべてしまったのだ、ブギーはそう思いました。体中を、怒りが突き抜けました。