しかし最初の手術のすぐ後ならともかく、何故今さら治験なのだろうとも感じたが、担当医の先生は「治験は今のところ再発した方が対象なのです」と続けた。それでなくても手術してから、まだ半年位しか経っていないのに、再発という事は進行が速い。

治験に申し込んでも、実際に始まるのはすぐではないだろうし、対象になるかも分からないし、その治療が合うかも分からないのだ。

日本で研究されている治療法なのに、何故か多くの治験は外国でやっている。やっていても人数枠が限られている。これでは受けたくても受けられない事が多い。希望する人には、できるだけ受けられる治験にしてほしい、そう思った。

「何か治療法はないのだろうか」そればかりを考えた。医者である息子に「息子なのだから何か治療法がないか探してよ」とついきつく怒鳴ってしまった。

すると息子も「僕だって助けたいと思っているよ」と、涙声で私に伝えてきた。

息子が泣くなんて、辛いのは私だけではないと感じた。又何もしてくれないと思っていた息子も、同じ気持ちなのだと、この時改めて感じたのだった。

それから私なりに、色々と調べた。そこで行き着いたのが、サイバーナイフ治療だった。

でもその治療が彼に合うのかも分からない。サイバーナイフ治療は放射線治療の一つで、悪性腫瘍の治療においては最先端の治療法と書かれていた。又ガンマナイフの様に頭蓋骨を金属で固定しないので、一回の照射治療だけでなく、必要に応じて何回でも同じ様に、分割照射できるのが一つの特徴であると。

しかし何処でもやっている訳ではない。関東でも数か所でやっているだけである。通っている大学病院ではやっていない。しかし担当医の先生も息子もあまり良い返事ではない。というのは、副作用もあるという理由からだった。

彼はというと「先生も息子も反対ならそれに従います」と。それでこの時は様子を見るという事になったのだ。

それからは何も治療法が見つからないまま時間だけが過ぎて行き、又暗い気持ちを抑える事ができず、毎日が憂鬱で仕方なかったのである。「何とか腫瘍が再発ではなく、間違いであってほしい」。もうこの時は神頼みしかなかった。

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