第四楽章もう一つの人魚物語

Ⅰ 意識体のワープ

目覚ましの音が鳴った。それはどこかで聞いたことがあるような、ないようなメロディーの音だった。布団の中から片手を伸ばし、その音の出所を探し当て、ようやく音が止む。まだ目は開けず、まどろみのひとときを過ごしていた。

ミコトはペットのデグーマウスとモルモットと一緒に、マンションでのひとり暮らしを楽しんでいる。趣味はダイビング。彼氏いない歴は、いつのまにか長くなっている。けれど、別段困ることはなく、好きな仕事を続けている。ミコトの勤務先は、精神科病院であった。お盆休みも、年末年始も関係ない職場である。ちょっと不便な場所にあるのは、何か理由があるのだろうか。身寄りがいなかったり、家族の面会が少なかったり、長期入院の方も多い特殊な空間といえばそうなるのだろう。その日は休日だったため、寝坊しても大丈夫な日だった。休日でも出かけることが多いのだが、月に一回ほど外に一歩も出ない日もある。お気楽・優雅な中堅どころのようだ。

しばしのうたた寝後に目が覚めたとき、物語は始まった!

「ここは、どこ?」

布団から身体を起こしたところで、しばし時間が止まった。覚えがない! というか、記憶がなくなったといえばよいのか。自分の身体を見下ろしてみる。身体は動かせた。

「あーーー」

声は出る。だけど、ここは、どこ? なぜここにいるのか、さっぱりわからないでいた。単に寝起きでぼーっとしすぎて、一時的に忘れているだけなのだろうか。

ワタシ、どうしちゃったんだろう? なぜ、思い出せないんだろう。記憶喪失になってしまったのかな……。

えーーー、どうしよう。どうしたらいいのかな。

いったい美琴に、何が起こったというのか。これがパラレルワールドとかいう世界になるのだとしたら、どのような展開に巻き込まれていくのだろう。

美琴は起き上がり、室内をうろうろしだした。洗面所にある鏡の前に立ち、顔を見つめてみるものの、やはり思い出せないでいた。

「ん~、やっぱりわからん。思い出せないよ。この人、誰なの?」

次に美琴がとった行動は、まずは名前がわかりそうなものを探しだすことだった。テーブルの上に無造作に置いてあるいろいろの中に、封筒らしきものを発見した。

【前回の記事を読む】先が未確定だからこそ、好きに選べる未来。不安や心配をしていてはもったいない!

【第1回から読む】【小説】美しい街に住む女性は、恋人の帰郷を信じて疑わなかった