しばらくの間、カトリーヌはじっと「囁き森」の入り口を見つめていた。
それからいつもの丸く澄んだ声で長い話をした。
カトリーヌのお母さんが魔女の烙印を押された時のことだった。
「大陸から役人がたくさん来て母さんを縛り上げた」
「私は叫んだよ。母さんを連れていかないでって。私の母さんは魔女じゃないって」
「その時、あの奥さんは言った。目障りだって」
「母さんのことを、私の母さんのことを目障りだって、あの冷たい声で私に向かって言ったんだ」
「最後に母さんは私をじっと見てうなずいた」
そして言ったの、「私のカトリーヌ」って。
「救貧院は牧師と暮らすより、うんと幸せだったよ。あそこにいる子供たちは似たり寄ったりの境遇だし、みんな、肩を寄せ合って生きていた」
カトリーヌは父親の顔を知らない。
救貧院のことしか覚えていないという。
物心ついた時には救貧院で母親の隣でパンをかじっていたという。
初めてカトリーヌを見た牧師夫妻は、一目でカトリーヌ親子を気に入ったらしい。
「きっと、母さんが馬みたいに頑丈そうに見えたんだ」
牧師さんはいくらかのお金を救貧院に寄付して、その見返りにカトリーヌ親子の雇い主になった。
「私、あと少しでこの島を出る。でもそのあと、どうなるか私にはわからない」
カトリーヌはその言葉を言ったあと、黙りこくったまま、僕の尻尾を撫で続けている。
「本を読んでいる時、私はハヤブサになれた。木になれた。風になれた。太陽になれた。
太古の声がしっかり生きろ、と私の肩を揺さぶった」
「でも本は全部燃やされてしまった」
カトリーヌは瞬きするのも忘れて目を見開いている。
目の焦点は定まっていない。
「ワルツさんからもらった本も燃やされてしまったんだ」
死ねばいいんだ、とカトリーヌは最後に小さく呟いた。
「囁き森」から一陣の風が吹いて、カトリーヌと僕をグルリと包んだ。