この奥は「囁き森」だ。
「囁き森」には大きなネジを頭につけたケンタウルスの墓場がある。
中に絶対入ってはいけないと僕はワルツさんから言われている。
昔、三人の漁師が肝試しのつもりで入って、帰ることができたのはひとりだけだ。
その人は片手をもがれ血まみれになって逃げ帰り、しまいには狂い死にしたと聞いた。
誰に襲われたのかはわからない。だって、その人、唇も樹の細い茎で縫われていたって。
それじゃ、しゃべりたくてもしゃべれない。
かさかさって音がする。
僕はさっと身を屈め、あたりを見回した。
「私よ、リュシアン」
声のするほうを見ると、ゴエモンコンブの化身が僕に向かってひらひらと手を振っている。
「リュシアンがこの森に入るのを見かけたからついてきたんだ」
カトリーヌは森の黒い緑とドロリと溶け合っていた。
瞳だけが翡翠のように光っている。
綺麗だ。
エスコートする紳士を気取って顎を上げてカトリーヌに近づくと、カトリーヌは膝を折って僕のしっぽを触った。
「リュシアン、私、奥さんのこと殺したいと思うことよくあるよ」
翡翠の瞳がギラっと鈍く光った。
「牧師さんのこともね」
「ワルツさんは人を憎むなって言うけど」
「母さんが死んだ時、私は心に決めたんだ」
「あることをね」