自然治癒力増強剤

その頃は健康増進法が施行されたことで住民の健康増進のための運動普及が保健師としての役割として求められる時期だった。私は市町村の保健師たちと一緒に運動普及に日々、奔走していた。

そんな中で、私は「操体法」に出会った。私は、その頃から腰痛や下肢痛としびれをいつも抱えていた。それはおそらく骨盤の歪みから来るものだろうと思っていたが、如何ともしがたく「我慢」するほかない生活を過ごしていた。

そんな時、ある研修会でたまたま出会った運動指導士が「骨盤、歪んでるね。右足長くない⁈ 腰とか足とか痛くない⁈ ちょっと寝てごらん」と声を掛けてくれた。いきなりの的を射た指摘に私はただただ驚いた。

彼女の言うとおり、両足を揃えてみて初めてわかったのだが、私の右足は長かった。そして痛みがひどいことも彼女の指摘どおりだった。

私は呆気に取られたまま、彼女の指示どおり彼女の前で寝転がった。そして「はい。息を止めて!」とか「こっちの足に力を入れて」「はい、今度は一気に力を抜いて」とか彼女に言われるままに従うと、それまで長かった右足が短くなった(?)。そして両足の長さが揃った。たった3分程度で。

立ち上がるといつも感じる腰の痛みがすっかり消えていた。「何これ?」と思わず彼女に尋ねた。

そこで初めて「操体法」という自分自身のひずみを自分自身の力で治す画期的な術式の存在を知った。それ以降、操体法に接する機会は無かったが、心のどこかには鮮明に「操体法」の「効力」が刻み込まれている。

その操体法がまさか、30年もたった今、どん底にまで堕ちた自分自身の神経を蘇らせてくれる最強の運動法になろうとは夢にも思わなかった。

とにかく操体法の教室に参加することにした。幸い、その教室は多少めまいがあっても行けるほどの距離にあった。

操体法はとにかく不思議だ。どう表現して良いかわからないが、呼吸と筋力をうまく使って、本来、人間の骨格に沿って筋肉や内臓などがあるべき位置に戻してやる(?)というような術式だ。

30年の年月を経て、私が出会ったのは「バランス操体」というものだった。「バランス操体」は「呼吸」を使い、身体の「重心」を基軸に身体を使う。正しく身体を使えば、身体が疲れることも壊れることもないらしい。

ヨガのように柔軟度を強調する華やかさはないし、有酸素運動でありながらエアロビクスのように躍動的でもない。ただただ、穏やかで静やかな有酸素運動というイメージだ。

「絵になる」「見映えする」ポージングも無ければ、BGMも無い。加えて、これまで学校などで教えられてきて当たり前だと思っていた柔軟体操、例えば、「首回し」や「前後屈」「側屈」などの動きが「えっ!? こんなやり方? こんな小さな単純な動きと息づかいでやるの?」という感じのカルチャーショックさえ受ける。