「ステフィーって?」

「説明していなかったね。ステフィーは俺の妻、ステファニーのことだよ」

「まだ会ったことも挨拶もしていないのに借りられないわ。あなたの寝着でもいいから貸して」

「ステフィーには俺から説明しとくから大丈夫だよ。絶対怒らないから安心しな」

俺はクローゼットから取り出してきたステファニーの服をエマに渡した。エマは両手で抱えている服をじっと眺めて迷っている様子だった。リビングに戻るとマリッサは「一、二、三」と人数を数えていた。

「あとウチとエマを合わせたら……、あとライトとリリーが来ていないわね」

「ライト君はリリーさんを車で迎えに行ってくれています」

ステファニーが自然体でマリッサと話しているのを見て妙に思えた。俺がいない間に打ち解けたということか。

「なぜライトだけ君づけで呼んでいるの」

疑問に思ったドランがステファニーに聞いた。

「ライトさんはよく家にいらしてくれるの。それで仲良くなったのです」

ステファニーは俺を見て焦りだす。ライトが家に来る時は勿論俺もいる。ただ誤解を招いただけだから気にすることはない。

「距離感が生まれちゃうから私たちのように呼んだら?」

とマリッサは提案してきた。

「それはいいね。それから、敬語で話すのもやめちゃおう」

とドランが賛成した。

「ステファニーも年は同じだし、私たちもステファニーさんのことをステファニーと呼びましょう」

ヘラもドランのあとに続く。

「よろしくね、ステファニー」

最初は戸惑っていたステファニーも

「こちらこそよろしくね、マリッサ。それから皆、私のことを気遣ってくれてありがとう」

こんなにもいい雰囲気をすぐ台無しにしたのはやはりトラヴィスだ。

「なんだこの壊れたテラス。これは最先端の芸術とでもいうのか? センス抜群だな」

と皮肉いっぱい込めて煽ってきた。

【前回の記事を読む】世界規模のコンサート、満員だったはずが指揮者は「大失敗だった」という…。