第二章

『道の人よ、生きて、間違いを正して下さいませ。あなたを見ると、わたしは、母の自慢の息子であった兄を見る思いが致します。』

娘は涙ぐんでいた。

『あなたは苦行を程々にしなければなりません。わたしの兄のように命を落とします。兄は欲望を絶つという苦行を続けました。それは食欲を絶つということでした。食を絶って命を保つ道理がありません。

母が言うには、体は食べ物でできているのです。気が付いた時には、もう兄の体は食べ物を受け付けませんでした。苦行に囚われ、苦行しか見えなかった、と母は嘆きました。

苦行しながらも元気な人は、必ず、隠れて食べていると母は言っております、真面目な兄はそれが出来なかったとも。母が申すには、自分程大切なものはどこを捜しても見つけることは出来ないそうでございます。

それを何故、敵(かたき)のように、命よりも苦行とやらのほうが大切だとでもいわんばかりに、痛め付けるのでしょうか。

道の人よ、どうぞ召上れ。御自分で御自分を殺してはなりませぬ。お母さまが悲しまれましょう。あなたのお母さまは、苦しい思いをして何故あなたをお生みなされたのでしょう。あなたの出家に、お母さまは反対なされませんでしたか。

母は苦行を、女はあんな間抜けなことはしない、とまで呪いました。

道の人よ、あなたはわたしの兄に似ております。兄は優しかった。わたしをかわいがってくれました。わたしは何も分からない子供の頃、兄のお嫁さんになるのだと……。』

娘はわたくしを見て微笑んでいる。娘はわたくしに乳粥を差し出した。わたくしはそれを受けていた。娘は翻すように去って行った。わたくしは、ふと、わたくしの母もあのような物怖じのしない人だったのだろうか、母がわたくしに乳粥を作ってくれたのであろうか、と思った。

乳粥は甘く暖かく、わたくしの体に染みた。わたくしは苦行に入ってから6年になる。わたくしには疲れが溜まっている。この体では苦行を続けていくことは出来ぬ。何故苦行をするのかということをもっと考えなければいけなかった。苦行には何の利益もなかった。苦行から離れるべきだ。安らぎを得るには、きっと他の方法があるのだろう。

娘は毎朝のように乳粥を持ってきてくれた。わたくしは、いつか娘と言葉を交わしていた。娘は20歳、スジャータといい、父は村の長(おさ)であったという。苦行を離れて、わたくしの体は乳粥によって日に日に回復した。

娘と話している或る朝であった。コンダンニャを先頭に5人のシャカ族の若者がわたくしの前に立ち塞がった。わたくしは彼等の怒りを知った。コンダンニャが切り出した。