光秀

「ははっ、ありがたき幸せにござりまする……」

⇒ありがたい、これは望外の御褒美である。信長様の仰せの通り、義昭様の反対も固辞し、この度幕臣を辞して正式に織田家に仕えることと相なったが、途中から外様として召し抱えられたこの儂が、織田家で最初の城持ち大名になれることは、儂への信長様の信頼が厚いことに他ならない。この機会にしっかりとした地盤を固める必要がある。それには根拠地となる坂本に、自分の新しい城を持ちたい……。

信長

「うむ、益々励め。その他の者には乱丸より伝える」

⇒これからは『信賞必罰』を家訓とし、織田家として一番戦果を上げた者に褒美を与え、取り立てることを第一とする。これは、儂が師事する韓非子の教えに、「君子が国を統治するには、臣下に対し、信賞必罰を第一とすべし」とあるを用いたものである。

本日は、この家訓を諸将に徹底する必要がある。それで此度は、譜代の諸将を差し置いて、途中から織田家家臣となった光秀に破格の褒美をやることで『信賞必罰』を宣言し、家中の全ての諸将に儂の考えを明確に示すもので、他の武将共が益々発奮することの起爆剤とするものである。逆に言えば、今後戦果を上げない者は、容赦なくふるい落す所存でもある!

光秀

「恐れながら申し上げます。只今望外なるご褒美を戴き誠にありがたく、衷心より御礼申し上げまする。この上は、上様のお役に立つべく、なお一層懸命なる精進をする覚悟でござります。一つお願い致したき義がござります」

信長

「うむ、申せ」

光秀

「只今ありがたくも、望外なる領地を拝領致しましたが、ここを上様のご期待に背くことなく統治し、なお一層のご奉公をする所存にござりますが、今の宇佐山城は山城であり手狭であることから、宇佐山城より東に下った所、琵琶湖畔に近い坂本の地に本拠を移したいと勘考致しますが、お許しくださりましょうや」

信長

「何、坂本とな。理由を申せ」

⇒ふむ、坂本は湖に面した交通の要所であり、将来的な発展が望める地であるな……。

光秀

「比叡山なき後、いまや畿内全域は上様のご威光と、ここに参列する諸将のお力で、もはや武力蜂起する輩はほぼ皆無となりました。今後更に上様が目指す天下不武に即応した機動力を発揮するには、宇佐山では様々不便がございます。よって坂本の地に新たに築城し、上様のご下知次第馳せ参じる所存にござりまする」

信長

「して、縄張りはどのようにするつもりだ」

⇒ふむ、面白いことを言うわ。

【前回の記事を読む】信長、比叡山焼き討ちを強行「刃向かう者をなで斬りにしてしまえ!」