第1章 渚にて
政治家や資金援助者に愛想良くしたり、あるいは実験のためにこき使う大学院生をしかりつけながらも、彼らの手柄を自分のものにしてしまう上級科学者が多い一方、実験中に現場で過ごすのが好きな科学者は「実験室のネズミ」と言われるが、私はよくそのように言われた。
私は実験室で実際にフランクや研究スタッフそれに学生たちと肩を並べて実験するのが好きで、彼らを指導し、彼らに議論をふっかけ、また彼らも同じようにするため、私が彼らにする説明や私たちの結論が妥当か確認するのだ。
これがフランクとやってきた科学者としての日常であり、支配的な定説と違うことが顕微鏡で見えた場合、私たちはその定説に挑戦してきた。
しかし、威嚇と嘘で固められた人類に対する闇の魔術の間近に私は来ていた。この手腕に長けている者たちの力がどのようなものか充分に知ることはなかった。私は光の世界に戻る方法を見いだしたのかどうか自信がない。私たちの多くは知らないうちにこの魔術に支配されているように思われる。
科学でどうすれば完全犯罪を成し遂げることができるだろう?
私たちは最初からこんな問いを考えたことがないので、全くの初心者ということになる。フランクは研究データを正確に記録し、世界中の共同研究者のデータと比較し、異常値は除外しそして結論に到達するという手順の必要性を私や他のスタッフにも30年以上指導してくれた。
もちろんデータには変動がつきものだ。しかし結果のデータがまとまった形である方向へ向かうことがあれば、それで人間の生物学的プロセスを一つ解明したことになる。
ただ、それは現実の世界で実際に起こったならばという限定がつく。現実の世界では製薬、農薬、石油、化学などの企業が存在し何十億ドルものカネを投じて科学者に研究させている。
もし数十億ドルあれば、闇の魔術を使い、広告会社に製品を売り込ませ、その製品に疑義をとなえる者に対して、その信用性を損なう種をまかせ、ニュースネットワークの広告を買い占め、ネガティブな話が放送されないようにできるし、党を選ばず政治家にカネをばらまくことができる。