「この次は何のレッスンをされるの?」

「十一時半からのホットヨガをやるんですよ。友達に勧められたからどんなものかやってみようと思うの」

「蒸し風呂みたいな室内でやるから水分補給を忘れないでね」

「そうですね。すっかり水分のこと、忘れてました。これから売店で買ってきます。奥様は、どうなさいますか?」

「今日は、これで上がりです。私はマイペースなんです。特に待っている人がいるわけでもないので、こうして時間をつぶしています。日によってはプールを選択することもあります。ここのミストサウナはドライと違い私は大好きなんです。その後、浴槽に浸かってからマッサージ機で、体をほぐすのが私のルーティーンなんです。それじゃ山形さん頑張ってください。また会いましょう」

「ありがとうございました」と軽く会釈して別れた。

美代子は、篠田さんという方はどんな生活をされているのか少し興味を持った。年齢も近いと踏んだので、話が合うかもしれないと一人で想像してみた。一つだけ引っかかった言葉があった。

それは「特に待っている人がいるわけではないので」

自分の結婚生活を知ると、きっと驚かれるかもしれない。でもそれが現実の姿なのだから、聞かれれば隠すことはしない。多分篠田さんは私が結婚してから主人が障害者になったと思われるかも。

もし当初から障害者と分かったうえで結婚したと説明すると、皆「どうして?」という言葉が返ってくる。そんな時、正直私は説明に窮する。自分でもうまく説明出来ないのだ。美代子はしばらく汗が引くのを、フロアの隅に座っていたが十一時半からのホットヨガの教室に、ゆっくりした足取りで歩き出した。

教室のドアを開けて内部に入った途端、室内が蒸気で曇ったようにうっすらと靄がかかっていた。一歩室内に進んだだけでも湿度が体を包むように、汗ばんできた。よく見るとほぼ百パーセント女性たちだ。それぞれがコーナーに置かれたマットを取ってきて、好きな場所に陣取っている。美代子も初心者なので後方の位置に、お隣さんと適当な間隔を取って座って待っていた。

このクラスも二十代から四十代まで幅広く、先ほどのエアロビクスよりは少し若年層が多いように思えた。皆、シェイプアップを目指しているんだ、と感心しながら、これから始まるレッスンの中身が気になった。

【前回の記事を読む】【小説】初めてのジム通い…。準備をしながら感じたのは遠足のようなそわそわした気分