「信じられないな……。ドランは兵士になるのを延長してまで力を入れていた仕事なのに大失敗だと?」
俺はドランの気持ちを味わい同情したかったのだろうか、ドランの前にあった隔たりとなるものが気になった。
ステファニーは「ごめんなさい。テレビでコンサートの様子を見た感じだと満員な気がしたのに……。ドランさんに悪いことをしてしまったわ」と頭を下げる。
勢いあまってステファニーの髪の毛は宙に舞う。それを見て慌てたドランは「気にすることはないよ。実際にコンサートはステファニーさんがテレビで見たように満員だった」とフォローに入る。
「じゃあ何が失敗につながったのよ」
この二人は、妻が夫の収入をいつも気にするごく一般的な夫婦に見える。
「この世の中全てだよ」
「よくわからないな」
ドランの話しているスケールがあまりにも大きすぎて、番組のドキュメンタリーを見ている感じだ。
トラヴィスの話を聞き流すためにつけたテレビから流れている笑い声が次第に鬱陶しく聞こえてきた。
俺は「でも世界から認められるという証明ができているから史上最大のツアーを開催できたという考え方も出来る」と励ます。
「レベルが低かった交響楽団から、急成長を遂げたすばらしさを認められただけだ。もううんざりだ」
「一国にまとまってくれれば良かったのにな」
トラヴィスの発言は、時々的を射ている。
ヘラが「これまで通りセンター国は自らを律する姿勢で歴史の過ちを弔ってい続けていたら何も問題なかったのに……」といい俺も大きく頷いた。団員皆同じ意見を持っていただろう。
ステファニーは「他国の人たちは何もわかってないのよ」といってドランにハンカチを手渡す。
「この世界は何もかもがおかしいからな」
ドランは世界のせいにしていいわけをしているのではなくて本気で世界のせいにしているのだろう。
「仕方ないよ。センター国がやってきたことは、周りからどのような印象を抱かれるのか予想がつく」とドランはハンカチで顔を覆った。