その声に合わせてボードを切り返すと、オフザリップが見事に決まる。圭は見事にオフザリップを決めて戻ってきた玲子と、ボードにまたがったままハイタッチをしていた。その日、二人は時間を忘れてサーフィンを楽しみ、仲良くボードを手に持ってヨッサンの店に笑顔で戻ってくる。
圭はデッキにある椅子に座り、隣の椅子に座った玲子と楽しそうに話をしている。圭は左手を波に見立て、右手にサーフボードの動きをさせ、オフザリップの切り返しのタイミングを玲子に繰り返し教えている。玲子は真剣な目で聞いている。そこにヨッサンがスポーツドリンクを二人に持ってくる。
「玲子さん、新しいサーフボードの調子はどうでしたか?」
玲子が嬉しそうに返事をする。
「新しいボード、とても気に入ったわ。最初は三枚フィンに慣れなくて、うまくターンが決まらなかったのよ。だけど、圭が一緒についてくれて、熱心に切り返しのタイミングを教えてくれたから、ターンもうまく決まるようになったわ」
圭が褒める。
「玲子はとても運動神経が良くて、新しいボードもうまく乗りこなしていた。最後の方はオフザリップの連続技も決めていたよ。玲子のサーフィンの腕前は、もうプロ級だ」
玲子は嬉しそうに笑っている。圭はヨッサンが持ってきてくれたスポーツドリンクを一気に飲み干し、
「玲子、洗ってあげるからウエットスーツを脱いで」
と声をかける。圭もデッキの上で自分のウエットスーツを乱暴に脱ぎ始める。それをデッキの横にある洗い場まで持っていき、ホースを手に洗い始める。二人分のウエットスーツを洗い終え、店の裏に掛けて戻ってきて、
「俺が先にシャワーを浴びてくるよ」
と言い、圭はシャワーを浴びるため店の中に入っていった。一人残された玲子は黒いビキニ姿のままデッキの上の椅子に座り、目の前の国道を走る車をぼんやりと見ている。しばらくしてシャワーを浴びた圭が、ジーパンと白いTシャツ一枚の姿で横に座る。玲子がそれを見て言う。
「圭、講演会場で見たアイビースーツの姿も素敵だったけど、ジーパンに白いTシャツの姿も素敵だわ」
圭がちょっと不機嫌そうな顔になる。
「俺は仕事をしているオンの時と、遊びのオフの時をはっきり分けたいんだ。遊びの時、仕事の話や、仕事の時に着ていた服装の話はしないでくれよ。そんなことより、玲子もシャワーを浴びてきたらどうだい」