ドアの向こうでプシプシプシと足音がした。
「どうやら来たようだわ」
高まる気持ちを抑えて入り口を開けたナンシーは、狢の風変わりな姿に息を呑んだ。ポトスの葉のようにとがった耳、シッポと目の周りは黒っぽく、身体全体はアイボリーの毛でおおわれている。二本の足で立っている姿はまるで、人が着ぐるみを着ているようにも見えるがそうじゃない、本物のたぬきだ。
「こんばんは」
そう言って狢は少し戸惑いながら中をのぞいた。
「あなたが狢ね」
「ようこそカトマンザへ、あなたを待っていたわ」
それを聞くと狢は少しほっとして緊張を緩めた。
「私はナンシー、さあ中へどうぞ」
うながされて分厚いドアの横をすり抜けた狢はプシプシプシと部屋の真ん中まで歩いていくと、緑色の大きなソファに太いシッポをはね上げてちょこんと腰掛けた。通称「緑のカンファタブリィ」の極上の座面が疲れきった身体を柔らかく受け止める。
「ここなんだ」
狢は両手をついて深く座り直すともう一度確かめるように言った。
「ここなんだ、やっと来られたんだ」
ベイビーフィールが緑のカンファタブリィの陰から顔だけ出して見ている。あらためてナンシーが言った。
「ようこそカトマンザへ」