この一週間後今度は北信越ブロックで比例当選した議員が離党届を持って幹事長を訪ねてきた。幹事長は怒りを露にし、
「よくも比例で優遇したのに後ろ足で砂を掛けるような真似ができるな！ 議席を返していけという腹立たしい思いだという事を忘れないで欲しい。何か言いたい事でもあるのか？」
と言われ議員は、
「比例で優遇して頂いた事には感謝して居りますが、私は六回当選のうちの五回を小選挙区で戦ってきました。それが比例候補者という選挙を戦ってみると居場所のない選挙で、城を追われた殿様の様なもので選挙戦を戦ったという思いがありませんでした。選挙は街宣車で訴えたり、個人演説会をしたりしてやはり勝ち上がるべきものと知りました。何卒離党を認めて頂きたく宜しくお願い致します」
と言って深々と頭を下げた。幹事長は離党届を受け取ることさえせず、
「そこへ置いて行け！」
と言って目も合わせてくれなかった。言われた様に幹事長のデスクに離党届を置き議員は幹事長室を出て言った。
こうして予め武藤によって仕組まれた与党議員の離党劇の中ではこんなエピソードもあった。それは関西選出のある野党所属の元野党党首経験者が、武藤が政党を立ち上げることを知り訪ねてきた際の出来事である。
先にその野党党首と理事長室で山脇を交えて面談していた際、離党届を提出したあの北信越ブロック選出の議員が武藤へ離党届を提出した報告に訪れ、鉢合わせしたのである。
気まずい思いの二人を意に解する事なく、武藤が、
「あら、嘗ての同志じゃない？ 先に入党を決めてくれていた貴方の意見も聞かせて？」
と言ってその挨拶に来た北信越選出の議員を事もあろうに同席させたのだ。すると北信越選出の議員から、
「あの時、党首だった貴方が女狐に騙されてくれたお陰で大勢の同志が過酷な状況に追い込まれましたよ……まぁ、一番見る影もなくなってしまったのが貴方なのがせめてもの救いですが」
と皮肉を言うと関西出身の議員は黙ってそれを聞いてこらえていた。見かねて武藤が、
「貴方は彼の入党に反対という事？」
と言葉を向けると、
「政党の存在感の一つに議員の数がありますから、志を同じくして、その政党の掲げる理念や政策を遂行してゆくという明確な意志を共有できるなら一人でも多く仲間がいる方がありがたい限りです」
と至極真っ当な意見を返してきた。
