第一話 ハイティーン・ブギウギ ～青松純平の巻～

2

浜の宮海岸＝アサリ、といっても過言ではない。光司は貝掘り仲間の一人だった。

「国道十号線沿いにドライブインあったよな。そこで貝汁定食を食べよう」

意気揚々と光司が先に階段を下り始めると、任侠にんきょう映画に出てきそうな目力のある角刈り頭と、もじゃもじゃの天然パーマが印象的なデニムのオーバーオール姿のデブ男が、階段を上ってきた。

ポケットに手をつっこんで肩をそびやかせて歩く角刈りは見るからに反社会的勢力と思われる人間で、近寄りがたい雰囲気を醸し出している。

一方、デブ男はホームサイズのアイスクリームを片手に抱きかかえ、スプーンで豪快に頬張っていた。

怪しい……俺が目を合わさずに通り過ぎようとした瞬間、「ウブ平？　マダムキラー？」という声が聞こえた。俺と光司が振り返る。

「ビンゴ？」

デブ男が屈託のない笑顔で言った。

「こんな偶然ってある？」

はて、地元の友人にこんな百貫デブいたっけ？　

「ウブ平とマダムキラーだあ？」

角刈りが声を上げ、こちらに顔を向ける。俺はデブ男と角刈りをじーっと見た。

「あっ」

ようやく記憶の糸を手繰り寄せることができた。

「ヒロブーとやーさん！」

ヒロブーこと浅黄幸広とやーさんこと桃尻明王は、椎田小学校の同級生。正確には、幸広とは保育園からの幼馴染みで、明王とは小学三年からの知り合い。あだ名は見たまんま。幸広と明王とも会うのは成人式以来である。

それにしてもヒロブーはめちゃくちゃ太ったなあ。容姿の劇的な変化で例えるなら、元アイドルグループの幕中塾(ばくなかじゅく)で、今は主にグルメリポーターとして活躍するピコ磨呂(まろ)に近い。

「これは神様の思し召しだ」

そう言うと、明王は小さく十字を切り「アーメン」とつぶやいた。いつからクリスチャンになったのだろう。疑問に思ったが、あえて質問しなかった。信仰は自由だ。