第一話 ハイティーン・ブギウギ ~青松純平の巻~
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浜の宮海岸のそばにある白百合亭は、敷地内に庭園があり、落ち着いたかっぽう佇まいが印象的な割烹料亭だ。俺は子供の頃、両親に連れられて何度かきたことがある。お造りや天ぷらなど、地元で水揚げされたばかりの海の幸や新鮮な山の幸を堪能できる。
白百合亭までの道すがら、俺たち四人は、結婚しているか、子供はいるか、といった近況をかいつまんで報告し合った。それぞれが家庭を持っていて、しかも家族揃って一家の主の故郷に戻ってきたという。
明王の言うとおり、神の思し召しかもしれないと俺は思った。いや、偶然というより何かの宿命かもしれない。幸広と明王は今日、二人だけのささやかな同窓会をするということで、妻から特別に許可を得ての外出だという。引っ越し荷物の整理整頓がまだ片づいておらず、妻からブーブー文句を言われたらしいが。
「はい、ただいまー」
俺たちが大きな暖簾をくぐり白百合亭の中に足を踏み入れると、奥のほうから明るく元気のいい女性の声が聞こえた。美保だった。足早にこちらへ歩いてくる。淑やかな着物姿がとても似合っていた。彼女とは中学卒業以来なので、実に四半世紀ぶりの再会だ。いい年の重ね方をしているなあ。俺は変わらない美しさに思わず見惚れた。
「ミポロン、御無沙汰してます!」
挨拶も早々に、幸広が今にもよだれを垂らしそうな勢いで質問する。
「メインディッシュはなんですか?」
美保がクスクスと笑う。
「それは後のお楽しみ。ヒロブーって全然変わらないわね。変わらないといえば……」
と手のひらで指し示し、「右から順に、やーさん、マダムキラー、ウブ平くん」
「正解です。さすが美保先輩」
明王が唸った。唸るほどのことでもないと思うが。明王だけはミポロンではなく、美保先輩と呼ぶ。
「年上の女性に対して失礼だろ」と。バリバリの不良だっただけに上下関係には厳しい。
「ミポロンさん、本当にお久しぶりです」
光司は「さん」をつけて丁寧な口調で言うと、一礼し、帽子をとろうとする。だが、寸前でやめた。ハゲのことはマドンナの前では秘密にしておきたいようである。もっとも店の中でずっと帽子をかぶったままというわけにはいかないから、すぐにバレるだろう。
「ウブ平くんもお久しぶり」
俺は挨拶する前に話しかけられた。
「あ、そう呼ばれるの嫌だったね。ごめん純平くん」
「いえいえ」
その気遣いが嬉しかった。
「お会いできて光栄です。ミポ……白百合さん」
俺は気安く「ミポロン」と呼べなかった。幸広と光司が羨ましい。