「で、二人は今から何食べにいくの?」
ヒロブーの嗅覚というか、食べ物に関する直感はあなどれない。見事に言い当てた。
「アサリ」と光司。
「やっぱり。アサリもいいけど、今日はみんなでパーッと宴会でもしない?」
幸広が嬉々として言う。
「白百合亭で。今、ミポロンが女将として切り盛りしてるんだって。これからやーさんといくとこだったんだ」
ミポロンこと白百合美保は、俺のひとつ年上の先輩だ。
昔から人を包み込むようなオーラのある優しい女性で、野郎どものマドンナ的存在だった。今日偶然に再会した四人とも少年時代に彼女に憧れていた。ミポロンというあだ名は美保の同級生で幼馴染みでもある男子によってつけられた。人気アイドル山中美歩の愛称【ミポポ】との差別化を図りたいということで、彼が当時ハマッていたチョコレート菓子【ポポロン】にちなんだのである。
「ミポロンに二名緊急追加って電話しとくね」
幸広はスプーンをアイスクリームに突き刺すと、胸当てのポケットからスマホを素早く取り出して電話をかけた。
「あ、ミポロン? ヒロブーです」
デブと自覚している幸広は「ヒロブー」というあだ名を気に入っていて、昔から自虐的に名乗っている。だが、俺は違和感を覚えた。
いい年したおっさんが「ヒロブー」と言うことに。ある程度の年齢に達したおばさんが一人称で下の名前を言うのと同じくらい、痛いなあと思うが、俺はつっこまないことにした。良くも悪くもそれがヒロブーだから。
幸広は通話を切ると、「OKだって」と言い、喉を鳴らした。
「ぐふふ。腕によりをかけた料理作って待ってるからって」
どこまでも食い意地の張った男である。
「ところで」
光司が聞いた。
「なんで、ヒロブーとやーさんが?」
「実は昨日、椎田駅でばったり会ったんだ」
明王が答えた。
「いろいろ話してたら、お互いに失業中とわかってよ……それでお詣りにきたってわけ。そういうマダムキラーとウブ平は?」
「お前たちと同じさ」
俺が言うと、明王は「オー、ジーザス!」と両手を広げ、悲しみの表情で天を仰いだ。
いちいちリアクションが明王らしくない。昔は見るからに不良で決して神頼みするような奴じゃなかったのに。正真正銘のクリスチャンなら神社ではなく教会にいったほうが御利益あると思うのだが……なんか胡散臭い。それはともかく、俺はみなと白百合亭へ向かうことに。