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その日の七時頃、酒類とつまみを詰めた買い物袋を提げ、お見舞いの体で、ぼくは北関東病院を訪れた。

彼女の病室は四階にあり、エレベーターを出てきょろきょろといくつのもドアを見回しながら、いかにも病院らしい静かな廊下を歩き、ようやく四二七号室を探し当てた。

部屋番号のそばには名札があり、そこには『大地瞳子』と書いてあった。そういう名前だったのだ、あの女は。ちょっと変わった名前だなという感想を抱きつつ、ドアをノックすると、「はあい、どうぞぉ」の声。ぼくは遠慮がちに白い引き戸を開いた。

白いワンピースの寝巻きを着た彼女が、ベッドに腰掛けてぼくを出迎えた。

なぜだか決意を秘めたような目でぼくを見てから、ほほ笑んだ。大地瞳子だ。名前を持つ存在となった彼女は、新鮮な印象を伴ってぼくの目に映るのだった。

そもそもあの姿、ひだひだのある柔らかそうな生地の長袖の白いワンピース姿は、寝巻きには違いないものの、輝かしく艶かしく見える。胸元もそこそこ大きく開き、これまでのスウェット姿しか知らないぼくは、困惑すら覚えてしまう。

いったいどうしてこんな姿で待っていたのだろう? いや、そもそもこれが病室での彼女の普通の姿なのかもしれない。

戸惑いながらへらへら笑って突っ立っていると、ものを抓むように親指と人差し指を伸ばし、彼女はくいくいと手首を捻る。

「鍵、鍵」

病室内での宴会は、秘密裡に行わなければいけない、ということか。静かに鍵を掛けると、色気のある女と二人きりとなり、ぼくのテンションはどうしても上がってしまう。持参した買い物袋を前に掲げて、「じゃーん、お待ちかねの酒だよーん」

「ワオ、いっぱいあるねえ。このために食事もほとんど残しちゃったんだ。そしたら配膳のおばちゃんに」

「具合悪いの? って?」

「そう。動かないから太っちゃってえ、ちょっとダイエットぉ、とか誤魔化しといた」

楽しそうに笑う彼女が輝いて見えたのは、白いワンピースのせいなのか、薄化粧をしているせいなのか、それともふんわり漂うトリートメントの香りのせいなのか、まだ酒を飲んでもいないのに、ぼくはほうっと温かくなった。