室内を見渡すと、ベッドはもちろんのこと、見舞い客用のテーブルに椅子、テレビ、棚、クローゼット、洗面にトイレにシャワールームらしきものもある。

「いいでしょ、個室。高いんだから」と得意そうに彼女。

「金持ちなんだねえ」

「そうじゃない。ここしか空いてなかったの。破産する前に、さっさと退院しないとね。とりあえず、座って」

彼女に案内され、見舞客用のテーブルに買い物袋を置き、椅子に腰掛ける。彼女もベッドから椅子に移り、ぼくたちは相向かいになった。袋から酒類とつまみを取り出し、テーブルに広げると、缶ビールに缶チューハイ、さきイカ、ピスタチオ、ポテトチップ、豪勢なる宴の馳走に目を見張り、彼女は言った。

「これ、どうしたの?」

「リカー品川からのパクリ品。まあタダで働いてるんだから、バイト代ってことで」

お互い、やっぱり最初はビール。看護師に気付かれぬよう、そうっと乾杯。ごくごく飲んで、プハー。ああ、うまい。

「いいね、ここ。夜景がきれいなバーみたい」

四階の窓から眺める景色は、古いものと新しいものが混在した雑多な町から、澄んだ星空のように変わっていた。

「入院してるとさあ、あんまロマンチックじゃないんだな。シャバから遠いところに来ちゃったなあって、しみじみ感じる眺めだよ」と言いながらも、ぼくに褒められてまんざらでもないような、ホロ酔いの横顔をしていた。高くはないが、真っ直ぐに鼻筋が通っている。

酒盛りの様子を看護師に聞かれてはまずいので、多少ボリュームを大きめにして、テレビを点ける。うってつけのにぎやかなバラエティーをやっていて、それをカモフラージュに、ぼくたちの会話は屈託なく、あけすけなものになっていった。

そういえば自己紹介すらしていなかったことに気付き、ぼくは名前や職業を教えた。アケボノショウゴ、酒屋、ただ今親父と喧嘩して家出し、リカー品川に居候中。彼女は、名前は病室の入口にあった通り、ただ今アニキの元嫁死亡につき喪中、と語った。

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