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アルコールが染みていくとともに、姿勢も崩れていく。椅子に座る大地瞳子は、片膝だけあぐらをかき、ギプスの固い足を指先でコツコツ叩きながら、病院生活のつまらなさや女性看護師の生意気さ、担当医のエロい手つき、何より満足に足が使えない不自由さに、明るく悪態をついた。
「さっきだってさ」
けだるく嘲笑うように、彼女は告白する。「お葬式帰りで線香くさい気がして、シャワー浴びたんだけど、この足でどうやったと思う? ごみ袋に右足突っ込んで、固く縛ってさ、ギプス濡れないように浴びてんだよ? 分かる、この苦労?」
ぼくはニヤニヤ笑い、「それで君からは、石鹸のいい匂いがしてんのか、さっきから」
「それに久々だし」
「何が?」
「わたしの部屋に、若い男招き入れるの」
今度は照れ笑いしてしまった。自分がエチケットの対象にされたことが、こそばゆくうれしい。確かにぼくは若い男だ。けれどただ若いだけなら、エチケットの対象にはされないはずだから。
「若い男なんか、いくらでも寄ってくるんじゃない?」
いよいよ酒をおいしく感じながら、ぼくは探りを入れてみる。「そのさ、君、モテそうだから」
「若い頃はそこそこ遊んだよ、わたしも。でも最近じゃ、面倒で、男が。歳かな?」
ぼくは面倒ではない男なのだろうか。しかし面倒ではない男とは、どうでもいい男という気もしながら、「歳って、いくつなんスか?」
「二十七っス」
「なんだタメじゃん」
ぼくは年上と思っていた。
「へえ。ならタメ男クンは、面倒じゃない、女が?」
ギプスからはみ出た足の指先をいじりながら、品定めするような上目遣いで、彼女が訊いてきた。
ぼくは舞浜あやこのことを思った。付き合ってはいるが、近頃会っていないし、確かに面倒になってきている。けれど面倒なのはあやこであって、女全般ではない。
「女が面倒になるほど、遊んだ経験ありましぇーん」
口を尖らせ、しかめっ面をしてみせる。「やっぱタメ子は、モテるんだね」
「そんなのもう、卒業したいよね。恋愛も、結婚も、子育ても、一気に端折って、八十歳のおばあさんに憧れる」
「そんなのもったいねえって!」
つい大声で、正直に漏らしてしまう。しっ、と彼女に人差し指を立てられて、ぼくは慌てて口に手を当てる。