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世はまさにゴールデンウィークまっさかり。なのにぼくはといえば、相変わらずリカー品川に居候しながら、店番だの配達だのして休みなく働いていた。
その日は仕事なんかするにはもったいないくらいの五月晴れで、自販機のジュースの詰め替えからの帰り、軽ワンボックスの窓を全開にして風に当たりながら走っていたら、あの女が松葉杖を突いて歩道を歩いているところを目撃した。輝くばかりの空気の中、黒いスウェット上下じゃあ季節に合わないぜ。
リカー品川の看板を背にして、こちらに向かって歩いていたから、また酒でも飲んできた帰りかもしれない。酒の相手は、店番の品川さんか。どんな会話をしていたのか気になりながら、女の脇に車をつけ、
「へーい彼女ォ、乗ってくかーい?」
「わあ、ちょうどいいとこ来たね。乗っけて乗っけてェ」
予想以上に食い付いてきた。危なっかしく杖を操り、女は本当に助手席に乗り込んできた。
「病院まで送っていけばいいの?」
松葉杖歩きに疲れてしまったのだろうと、ぼくは考えていた。
「お願いがあるの」
殊勝な様子で、彼女はぼくに頼んできた。
「斎場まで、連れてってください」
「斎場? ってことは……」
「お葬式ができちゃった。で、今リカー品川で、これ買ってきたの」
手首から提げていた小さいレジ袋から、彼女は香典袋を取り出し、ぼくに見せた。知り合いが亡くなったのだろうが、動揺している様子もないから、さほど近しい関係ではないのだろう。車をスタートさせ、ぼくはなんの気なしに尋ねた。
「亡くなったのって、誰?」
「兄貴の嫁」
おいおい、かなり近しい関係じゃないか。